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HAYATOごっこ -1-

それは、ある穏やかな休日の朝のことだった。休みの日はこの時間に起きると自分で決めた7時きっかりに起きたトキヤは、カーテンの隙間から差し込んでくる朝日に今日がとてもいい天気であることを確信する。まだぐっすり寝ている音也を起こさぬように着替えを済ませ、その寝顔に軽くキスをしてダイエットを兼ねたランニングに出かけたのは1時間程前。

ここ最近は随分冬めいたものになり、特に朝晩の冷え込みは厳しい。トキヤは、走り始めの、頬を冷たい空気が切ってゆくような感覚がたまらなく心地よくて好きだった。それから、すぐにからだが熱くなっていく感覚も。元来運動神経がいいトキヤにとって何も考えずにただ汗を流すこの時間は、常日頃追われているHAYATOとしての仕事の気分転換に最適だったのだ。

――あぁ今日もよく走った、今日は天気も気分もいいし、いい日になりそうだ。そういえば音也はもう起きているだろうか、起きているならば健康的な彼のこと、きっと空腹だろう。朝食は何を作ろうか。

ふかふかのタオルで汗を拭いながら寮の廊下を歩く間、考えるのは恋人である音也のこと。目を覚ました彼が自分の帰りを待つ姿を思い浮かべるだけで自然と笑顔になってしまうくらいには、トキヤは音也に夢中だった。終始ご機嫌な彼が自室についてとりあえずシャワーを浴び、リビングへと繋がるドアに手を掛けた瞬間耳に届いたのは、よく知った声だった。


『おはやっほ〜!全国一千万のHAYATOファンのみんなぁ、元気かにゃぁ?今日も、第2スタジオからみんなに元気をお届けしま〜すっ!』


どうやら自分がシャワーを浴びた音で目を覚ましたらしい様子の音也がベッドに寝転がったまま見ていたのはおはやっほーニュースで、画面いっぱいにきらきらとした笑顔を振りまいているのは紛れも無い自分が演じるHAYATOの姿だったのだから。それを目にした瞬間にトキヤの機嫌は急降下してしまった。ところが、音也はそのことには全く気付かないようで、ベッドに座りなおして自分の傍に来てくれたトキヤに甘えるように、あたたかな手でトキヤのそれをきゅっと握ってくる。

「…音也」
「トキヤおかえりっ!」
「朝から何見てるんですか」
「?何って、おはやっほーニュース」
「そんなことはわかっています。なぜあなたがこんな時間にそんなものを見ているのか、そう聞いているんです」
「えっと、昨日寝坊しちゃって、見られなかったからさぁ。俺HAYATOのこと好きだし、好きな人の活躍ってやっぱ見たいもんじゃない?」

――いや、私が言いたいのはそういうことではないです。そもそもあなた、私がHAYATOを好き好んで演じていないことくらい解っているでしょう?せめて私が居ない間に見てくれれば何も言わないものを…

言外に「消して下さい」という意味を含めたトキヤの質問に対する音也の答えは、トキヤの予想の遥か斜め上をいくものだった。トキヤの心中も知らずにこにこ笑いながら上目遣いで見上げてくる音也の笑顔に、ずきずきと頭が痛んでくるような気さえしてくる。

「〜〜っ、あのような低俗な人物のどこがいいのです…」
「HAYATOはそんなんじゃないよ!いつも元気で前向きでキラキラしてて明るくて…、それにHAYATOのあの笑顔見てると、なんだかこっちまで笑顔になれるってゆーかさっ」

彼が嬉しそうに口にする『HAYATO』への賞賛の言葉が、トキヤの胸に突き刺さる。元気で、前向きで、明るくて。その全ては自分が持っていない――または、とうに失ってしまったものだった。それに、自分の恋人がこうもはっきりと他の男への好意を口にするのは気分のいいものではない。例えそれが、自分が演じているHAYATO相手であっても、だ。

「…そんなにはっきりと他の男への告白を聞かされるとは思いませんでしたよ」
「え?だってHAYATOはトキヤが…うわぁっ」
「そんなに好きなら、HAYATOに抱かれてみますか?」
「何言って…うぁっ」

それだけ言うと、トキヤはベッドに座ったままじっと自分を見上げている男の肩に手をかけて、そのまま一気に押し倒した。ふたり分の体重を受けたベッドがぎしりと音を立て、シャワーを浴びたてでまだ濡れているトキヤの髪から、ぽたりと音也の頬に水滴が落ちる。いつもだったらこうやって押し倒されたと同時にトキヤはあまいキスをくれるのに、今は俯いているせいで彼の表情すら見えない。急に不安になった音也が名前を呼ぼうと口を開いたのと、聴き慣れたあの声が聴こえたのは同時だったように思う。






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20111122 新規作成
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