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6月♪気付かない振りをしていたのに -5-

その日、時計の短針と長針が揃って真上を指しても、
トキヤと音也の部屋にはひとり分の体温しかなかった。
音也は友人である真斗か翔あたりを頼って彼らの部屋に居るのだと予想はつく。
着替えは彼らに借りれば済むことだし、この時間になっても戻らないということは
きっと今日は泊まってくるのだろう。

もし明日授業があるならば、音也だってトキヤの手元に残したままの
ネクタイを取りに来たのかもしれない。けれど生憎翌日は土曜日で授業は休み。
だから、自分を襲った男が居る部屋に無理に取りにくる必要などなくて…。
今日音也がこの部屋に戻らないという条件が揃っている事は
これ以上ないくらいに理解できているのに、こころがついていかない。

自分が思い詰めたところで音也が帰ってくることはないし、
明日はHAYATOとしての仕事が待っている。
トキヤはひとつため息をつくと、放っておけばマイナスの方へと偏ってしまう気持ちを
リセットするために、バスルームへと向かった。



いつもと同じようにぬるめのお湯で半身浴をしても、
終わりに熱めのシャワーで頭をすっきりさせようとしても。
思ったほどの効果はなく、結局、トキヤの頭の中から
昼間の出来事が影を潜めてくれることはなかった。

もしかしたら自分がバスルームにいる間に音也が帰ってきているかもしれない、
そんな都合のいい期待をもって部屋に戻っても当然ながら彼の姿はなくて、
もう6月だというのにやけに空気が寒く感じられる。

「…なんであんなこと、してしまったのでしょうね…」

トキヤはいつになく無造作にベッドへと転がると、手の甲で目元を覆った。
そうすれば、瞼に焼き付いて離れない音也の表情を
もしかしたら忘れられるかもしれない、そう思ったからだ。

あの時すぐに追いかければ、思い切り手を伸ばせば、届いたのかもしれない。
けれどどうしても、それができなかった。

『おれトキヤのこと好きだけど、こんなのは嫌だ』

最後に音也が言った、明らかな拒否の言葉。
たったこれだけの言葉で、からだが動かなくなってしまったのだ。
好きだと伝えて、彼も好きだと言ってくれて。
キスだけに留めておけばよかったのに焦りすぎて…きっと、彼を傷つけてしまった。

『これって、トキヤがすきっていってくれて、おれも、トキヤのことすきだから、なのかなぁ』

今となっては、心地いいキスの合間に音也が自分のことを
すきだと言ってくれたのが夢の中の出来事だったように思う。
もう多分、二度とあの言葉を聴くことはできない。
それどころか、もしかしたら同室を解消されるかも。

だってそうだろう、冷静に考えてみれば、告白したその日に
自分を押し倒すような男と残り10ヶ月、一緒に過ごせる訳がないのだから。
自業自得とは言えこんな状況に陥ってしまったことがひたすら悲しくて、
トキヤは滲んでくる涙を誤魔化すようにきゅっと目を瞑った。






改定履歴*
20111031 新規作成
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