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6月♪気付かない振りをしていたのに -2-

トキヤの藍と音也の赤。
ふたつの色が交わって、ゆっくりゆっくり、距離が縮まってゆく。

初めて会った時からずっと変わらない、『自分にないものに惹かれあう心』。
まるでその引力に導かれるように、驚くくらいに自然に、
ふたりの距離はあと数センチというところまで近付いていた。

先程のあれは、本当に事故だった。
けれど、もう一度唇を合わせれば、今度こそ立派な『キス』になる。
きっと音也も、その違いに気付いたのだろう。
吐息が触れる距離で一瞬だけ、赤の瞳が戸惑ったように揺れた。

「あ…の、トキヤ…」

もし今、ほんの少しだけでも彼の瞳に拒絶の色が浮かんでいれば、
トキヤだってぐっと気持ちを抑えて、何事もなかったかのように
昨日までの『ライバル兼ルームメイト』という二人の関係に戻ったのだろう。

けれど、音也の表情のどこにもそんな色は見当たらなくて、
それどころか、見つめれば見つめるほどに頬が赤く染まってゆく様子が愛しくて――…
トキヤは、彼の緊張を解すようにふわりと笑って、そのまま瞼を閉じてみせた。
それにつられるように、音也がきゅっと目を瞑る。

「好き、です。音也。あなたのことが」

唇の位置を確認するために再び開かれたトキヤの瞳に映った音也の表情に、
トキヤは自らの想いを抑えることができなかった。
嘘偽りのない本心を囁くように告げて、幾分熱をもった音也の頬に手を添える。

――気付いて、しまった。自分の気持ちに。

いや、本当はもう随分前から、気付いていたのかもしれない。
音也が甘えるように自分にじゃれついてくる度、胸の奥がきゅうっとなるこの気持ちの名前に。
ただ、それを認めてしまったら最後、もう引き返せない気がして怖かった。
だから無理やり自分の気持ちに気付かない振りをしていたのだ。

けれど、それもきっと限界だったのだろう。
だって最近では、思わず必要以上に彼に冷たく接してしまうくらいに、
音也の笑顔を見るたび心が乱されていたのだから。

「…え、ぁ、トキ…、――っ」

唇が触れる寸前に囁かれた言葉に驚いた音也が思わず目を開いてしまうのと、
その唇がトキヤのそれで塞がれたのは同時だったように思う。






改定履歴*
20111027 新規作成
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