top * 1st * karneval * 刀剣 * utapri * BlackButler * OP * memo * Records

6月♪気付かない振りをしていたのに -1-

――きっかけは、いつものように音也からの他愛無いじゃれ合いだったのだ。
それが、まさかこんなことになるだなんて。



****
「は?」
「だーかーら、くすぐっていい?って言ってるのっ。トキヤ、俺の話聞いてくれてた?」

それは6月の、めずらしくトキヤがHAYATOとしての仕事の無い日のことだった。
貴重なオフをどう使おう。買ったまま読めていなかったボイストレーニングの本を読もうか、
それとも、ずっと見れていなかった映画を見ようか。
寮までの道のりを歩く間中そんなことを考えても結局決めきれなかったトキヤは、
部屋に入った瞬間の気分でどっちにするか決めよう――そう思いながらドアに手を掛ける。

その瞬間、たしかにトキヤの頭の中は映画のことで一杯だったのに。
ほぼ同じタイミングで帰宅した音也の第一声によって、
貴重なオフに楽しみにしていた映画を見るという夢は打ち砕かれた。

「確かに、あなたと翔が擽りあいをしてあなたが負けた、
 という果てしなくどうでもいい話は聞きましたが…それでどうして私にまで話が及ぶのです」

しかも、音也が至極楽しそうに自分に喋りかけてくる内容はやはりというかなんというか、
トキヤにとってはどうでもいいことで…つい、返答も冷たくなってしまう。

「どうでもいいって…超ショック。まぁいいや、だからねっ俺、負けっぱなしは嫌なんだ」
「はぁ」
「トキヤならそういうの弱いかなって思って。っていうか、トキヤを笑わせてみたいんだよね。という訳で」
「ちょ、何ですかその手は…、やめ、っ!!!」

『擽りあい』だなんて、そんな、今どき小学生でもやらないような事をなんで自分が、とか、
『笑わせてみたい』って一体どういう意味なんだ、とか。
言いたいことは沢山あったけれど。
そんなくだらない子供の無邪気な遊びすら満足に経験したことのないトキヤにとって、
今日まさに翔と鍛えてきた音也からの攻撃はひどく擽ったいもので――

「音也、おと…ちょ、やめ、っっやめなさい!」
「やだ!トキヤが笑いすぎてもームリってなるまで、やめないからね」
「なっ、なんで私が…ッ、やめ、っ、――音也!」

何もトキヤだって、絶対に笑ったりしない、なんてことを決めていたわけではないが、
なんとなく、音也の思惑通りに笑ってしまうのが悔しかっただけ。
そしてトキヤは、一旦笑わないと決めたら意地でもそれを押し通す我の強さがあった。
そのためには、いくらやめろといっても一向に言う事を聞く様子のない音也を止めるため、
力でねじ伏せるしかなかったのだ。

とは言え、流石に床に押さえつけるのは痛いだろう――
普段素っ気無く接していても、決して音也のことを嫌ってはいないトキヤは、
ちらりと横目に入ったベッドにじゃれついてくる音也を押し倒した。
ただ、後からよく考えればその気遣いが逆効果だったように思う。

なにしろ、擽ったさで力の加減ができなかったせいで、
ベッドに押し倒した音也のくちびると、自分のそれが触れてしまったのだから。

「…え、」
「あ…」

意図せず起きた『事故』に、ふたりの間の時間が止まる。
トキヤも驚いたが、音也はもっと驚いていたようだった。
本来の天真爛漫さはすっかり影をひそめ、そのかわりにやけに庇護欲をさそう雰囲気を彼を包む。

どうしたらいいのかわからないというように眉を下げ、
さきほど触れた唇は何か言いたげに緩く開いたまま。
ほんのり上気したように見えるさわり心地のよさそうな頬が、
すこしだけ潤んでいるように見える大きな瞳が。
彼を構成するすべての要素が、トキヤを誘っているようだった。






改定履歴*
20111027 新規作成
- 4/16 -
[] | []



←main
←INDEX

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -