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5月♪その人懐っこさは天然ですか?

「…音也」
「はーい。なにー?」

ぽっかりと空いてしまった日曜日の穏やかな昼下がり。
ソファに座って録画していた勉強の為の歌番組を見ていたトキヤは、
何の気なしにルームメイトの名を呼んだ。
それに対するほわんとした返事は、目線よりずっと下から聞こえてくる。

「何、ではなくて。その体勢辛くないのですか」

音也はトキヤの膝を枕にして、ころんとソファに寝転がっているのだ。
そう、ふたりはいわゆる、膝枕と呼ばれる体勢をとっていることになる。

「全然平気だよ?あっ、もしかしてトキヤが脚痛い?」
「そういう訳ではないですが」
「よかった!ねぇトキヤ、これみてこのギター。かっこいいよねぇ」
「…そうですね」

正直ギターにそれほど興味はなかったが、膝の上からじっと見上げられて
嬉しそうな表情で同意を求められればそう答えるしかないではないか。
トキヤのそんな気持ちなど知る由もない音也は、同意してもらったことが本当に嬉しかったようで
にこにこと見るからにご機嫌な様子でまた雑誌に視線を戻した。
もちろん、トキヤの脚を膝枕にしたままで。

なんとなくテレビに集中できなくなったトキヤの手は、無意識のうちに音也の髪を撫でていた。
そおっと触れて、そのまま梳くように撫でる大きな手。
それに気付いた音也は、心地良さに任せてそっと目を瞑る。

共同生活をし始めて二週間くらい経った頃だろうか、
こんな風に音也がトキヤに甘えるようになったのは。
きっとそのきっかけは、音也の髪の毛をトキヤが乾かすようになったことだろう。
あの日を境に、音也はまるで仔犬のようにトキヤに懐いてしまったのだ。

「――あなたは本当に」
「え?」
「いえ…、何でもないです」
「何なに、教えてよー」

――本当に、コレは、気付いたらいつの間にか、傍に居る。

そして、認めたくないけれど、そのことを『心地いい』と思ってしまっている自分がいる。
トキヤは最近気付いたその事実を、ゆっくり少しずつではあるが受け入れ始めていた。
勿論、初対面の時には必要以上に関わらないようにしようと思ったことは嘘ではない。
今だって、音也の屈託のない笑顔にコンプレックスを刺激されることはある。

でも、それ以上に、一緒にいて感じる心地よさが勝ってしまったのだ。

「あなたは本当に、仔犬みたいですね」
「そう?俺、こーやってると落ち着くんだよね」
「…そうですか」
「うん。気持ちよくてなんだか眠くなってきて…そうだ、トキヤもやってみる?」
「え?」
「遠慮なんかしないでさっ!ほらほら」
「ちょ、音也…ッ」

名案を思いついたとばかりに勢いよく起き上がり、
ソファに座りなおした音也にぐいっと腕を引かれれば、
トキヤのからだは惰性で倒れこんでしまった。
そう、ちょうど、ほんの少し前まで自分が音也にしていたように、膝枕の体勢で。

「――〜…っ」
「ん?眠くなったら寝ていーからね」

目が合うと音也はにこっと笑ってみせ、その笑顔はひどくトキヤを動揺させた。
『遠慮します』『離してください』そう言えばきっと解放されるのに、
そんな簡単な言葉ひとつも出てこない。

トキヤが頭の中でそんなことをぐるぐる考えている一方で、
音也はあっという間に先程までと同じように雑誌に集中してしまった。

音也の意識が自分から離れた、そのことで少しだけ平静を取り戻したトキヤは、
ふと彼を見上げるなんてこれが初めてだということに気付いて目が離せなくなる。

トキヤのきれいなブルーの瞳に映るのは、すこし癖のある赤い髪。
普段でもやわらかなそれは、照明に透けてよりふわふわに見える。
やわらかくて、あったかそうで、まるで音也そのもののような髪をぼんやりと見ていたら、
不意に自分の髪に音也の手が触れていることに気がついた。

「お、音也?何ですか?」
「…?トキヤだっていつもやってくれるじゃん」
「え」
「こーやって、なでなでって」

そういいながら音也は自分の膝を枕にしているトキヤの髪をそっと撫でる。
時折指に髪を絡ませ、まるで可愛いペットを愛でるように。
早くも遅くもないちょうどいいペースで静かに撫でられていると、
なんだかすこしずつ、眠くなってきたような気がした。

「キモチいーでしょ?俺、トキヤにこうされんのすっごく好きなんだよね」

先程よりもずっと遠くで、音也のやさしい声が聴こえる。
認めたくないけれど、でも、確かに気持ちいい。
まるで頭の中心がふわふわととかされてゆくようで、
先程までの動揺が嘘のように、なんだかとても落ち着いてしまう。

だんだんと霞がかってゆく意識の中で、先程音也が言っていた
『眠くなったら、寝ていいからね』の言葉が思い出される。
確かに今眠ってしまえばとても気持ちいいのだろう。

ああでも、今自分が身を任せているのはライバルのルームメイトで、同性で、それで…
この欲求を抑えるための言葉を思いつく限り並べてみても、無駄な努力だったようだ。

煩わしいことは、起きてから考えればいい。
ただ今だけは、この暖かさに身を任せていたい――…
トキヤはそう心の中で呟いて、すっと目を瞑った。



「…寝ちゃった」

数分後、トキヤと音也の部屋に響いたのは、少し驚いたような音也の声。
理由は普段はけして見せることのないトキヤの無防備な姿に驚いたからなのだが、
すぐに音也の表情はうれしそうな、やわらかなものに変わった。

「おやすみ、トキヤ」

そういって、最後にもう一度だけ髪を撫でて自身も目を瞑る。
テレビを消したふたりの部屋には、夕食の時間になるまでふたり分の寝息が静かに響くのだった。







改定履歴*
20111024 新規作成
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