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6月♪気付かない振りをしていたのに -7-

「…私と一緒の部屋では、あなたは落ち着かないでしょうから」

昨日は急にあんなことをしてごめん、戻ってきてくれてありがとう。
そう言いたいのに、トキヤの口から出てきたのは我ながら可愛気のないセリフだけ。
声だって動揺を隠すためにひどく低くて、まるで怒っているようなもので、
現に音也はトキヤの態度にしゅんとなってしまったが、それでも引く事はなかった。

「ちがうよ、そんな風に思ってない!
 昨日はマサが帰ってくるの待ってる間に
 寝ちゃってて、気付いたらもう朝で」
「言い訳はいいです、無理して一緒に居てくれたところで私もつらいだけ。
 もうあなたの口から拒否の言葉は聞きたくないんです」
「なんで俺がトキヤのこと拒否しなくちゃいけないの?そんなのしないよ!」
「昨日、『嫌』と言ったのは拒否じゃないんですか?」
「あれは…っ」
「違わないでしょう?」
「〜〜っ、俺もうこんなのやだよ…。仲直りしたい、トキヤぁ」

トキヤの袖を握った音也の手が、ほんの少しだけ震えている。
自分を見上げてくるだいすきな赤の瞳もおなじ。
ゆらめく瞳をうっすら覆った涙の膜を認めた途端に、
トキヤは昨日と同じように自分の中のスイッチが入るのを感じた。

「…っ、あなたは、人の気も知らないで」
「え、あ、」

トキヤは自分より幾分ちいさな音也のからだを壁際に押し付け、
閉じ込めるように腕で行く手を遮ってしまう。
慌てた音也が目の前の男を見上げた次の瞬間、その唇はキスで塞がれた。

「――んんっ、ぅ、っぷは」
「これでも、拒否しないなんて言えますか?」
「はぁ、は、…トキヤ?」
「仲直りして元通りになんて、無理です」
「なんで…?」
「あなたのことを好きだと言ったでしょう。気持ちに気付いてしまった以上、
 今までのように同じ部屋に居て触れないでいるなんてこと、私にはできないんです。
 私はあなたに、キスも、それ以上のことも望んでしまう」

視線を逸らしながら苦しそうに心の内を吐露するトキヤの切ない声に、
音也は一瞬返す言葉が浮かばなかった。

キスもそれ以上のことも嫌じゃないのに、自分だってトキヤのことがすきなのに、
それを自分がうまく伝えきれないからトキヤがこんなにつらそうな顔をするんだ。

でも、それなら、ちゃんと伝えたらもうこんな表情をさせることはないのだろうか。
いままでみたいに、まっすぐ自分のことを見て、たまには笑いかけてくれるのだろうか。
自分がこの気持ちを、伝えることができたなら。

「…いい、平気、だから行かないで」
「音也、無理しないでください」
「無理じゃないよ、」
「あなたは昨日、今と同じ事をした私を『嫌だ』と言って拒否したでしょう。
 なのに今はもう平気だなんて、白々しいにも程があります」
「トキヤ」

音也のあたたかい手が、トキヤの頬をふわりと包む。
音也は、4センチの身長差を埋めるようにぐっとつま先立ちをすると、
そのままトキヤの唇へとキスをした。

一瞬何が起こったのか把握できずにいるトキヤの脳へ、ちゅ、っと可愛らしいリップ音が響く。
ゆっくりと離れてゆく温もりにつられるように自分が閉じ込めている男を見れば、
彼は泣きそうな視線で自分を見上げていた。

「音也、あなたは何を…」
「これで、無理なんかしてないって信じてくれる?」
「なにバカなことしてるんですか、こんな――…」

ひとさし指と中指でトキヤの唇に蓋をして、そのまま、顔を真っ赤にしながらも
真っ直ぐに自分を見つめてくる音也の表情から、トキヤは目が離せない。
お互いに続きの言葉を口にできないまま、ただ時間だけが過ぎていった。

その間じっと見つめられてなんだか照れてしまったのと、
それまで冷たかったトキヤの雰囲気がすこしずつ柔らかくなってゆくのがうれしいのだろう。
音也の手はいつの間にかトキヤの唇から手を離し、代わりに
行き場をなくしていたトキヤのしなやかな手を甘えるようにきゅっと握っていた。
普段より少しだけ熱をもった指と視線で、先程までの凍っていたトキヤのこころがとかされてゆく。

「あのねトキヤ、おれ」
「…はい」
「トキヤが嫌だったわけじゃなくて、ただ その、恥ずかしくて」
「恥ずかしい?」
「だからその、…おれ、キスだけで反応しちゃってたから。触られたらばれると思って、つい」

ゆっくりゆっくり、一生懸命に伝えられる真実に、トキヤの目が驚きでまるくなる。
音也から握られていた手をつよく握り返してしまったけれど、
嬉しさのあまりちからを緩めることはできなかった。

「――私に触られるのが、嫌だったから逃げたのではなかったのですか?」
「ちがうよ!嫌な訳ない。俺、トキヤが好きなんだ。
 昨日のキスだって気持ちよくて、うれしくて、しんじゃいそうだった。
 続きも…できたら、もっとしあわせになれるんだろうなって思うけど、
 経験ないからそれがトキヤにばれて嫌われたらどうしようって思うとこわくて」
「そんなこと、」
「でも!トキヤとこんな気まずくなるほうがもっと嫌だよ」

『経験がないのがばれるのが』嫌だった。
まるで都合のいい勘違いみたいに思えてしまうくらいの音也の本音に、トキヤの顔が一気に赤く染まる。
だってそれはつまり、音也は自分のことを嫌っていないということで、
あのキスは、音也のファーストキスだったということで…。

「だから、トキヤがいやじゃなかったら、俺と…」

それまで俯いて一生懸命に言葉を紡いでいた音也が、
何かを決心したようにトキヤの藍の瞳をまっすぐに見つめる。
お互いの鼓動の音が聴こえてきそうなくらいに静かな部屋で
ふたりの唇がふわりと重なるまで、その視線は外されることはなかった。







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20111103 新規作成
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