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6月♪気付かない振りをしていたのに -6-

少しだけうとうとして起きての繰り返しで迎えた翌朝、
トキヤは一晩中部屋に戻ってこなかった音也のことが気になりはしたものの、
迎えに行く勇気もなく結局そのままHAYATOとしての仕事をこなすために寮を後にした。

けれど仕事中も、いくら集中しようと思っても頭に浮かぶのは音也のことばかり。
今頃何をしているのだろう、誰と一緒にいるのだろう。
…やはり自分のことを、嫌いになってしまっただろうか。

考えがぐるぐると頭の中でループして、一日の仕事を終え帰途につく頃には、
トキヤはまるで仕事に慣れていない新人のようにくたくたに疲れてしまっていた。

――今日寮に帰って、部屋に音也が居なかったら自分から同室の解消を申し出よう。
それが、今日一日かけて音也の気持ちを最優先して考えた結論だった。

自分は勿論、音也だってアイドルを目指してこの学園に来た。
今は他の何かを考える暇があったら歌や作詞やダンスの練習に充てるべきで、
寮生活はそれを最も効率的にできるよう考慮されてのもの。
なのに同室の自分の勝手な想いでその邪魔をするわけにはいかない…そう思って。

寮の廊下を進む足取りが、部屋に近づくにつれ重くなってくる。
寮の玄関から自分たちの部屋までの距離をこんなに遠く感じたのは初めてだった。
そして、このドアを開けるのをこんなに『怖い』と思った事も。

きっと、部屋は朝自分が出たときのままで、灯りも点いておらず暗いのだろう。
昨日までは自分がドアを開けた瞬間に聴こえた『おかえり』の声と
あの太陽のような笑顔が見れない……その限りなく事実に近い予感が、トキヤのこころを凍らせる。

自分のこの想いを消すことはできない、けれど音也の夢の邪魔をするわけにはいかない。
だからこのドアの向こうには彼は居ないほうがいいのだ――
いくらそう思い込もうとしても、冷たいドアノブに手を掛けると自分の鼓動がどくどくと耳に響いた。

けれどだからと言っていつまでもここでこうやっていても仕方ない。
自分はこんなところで立ち止まっているわけにはいかないのだ。
トキヤはそう自分に言い聞かせて、ぐっと唇をかみ締め俯いていた視線を上げた。





「おかえり、トキヤ」





思い切って開けたドアの向こうから聞こえてきたのは、聞きなれた愛しい人の声。
そう、トキヤの予想に反して、音也は自分たちの部屋に戻ってきていたのだ。
大きなクッションに座りCDや楽譜を床に散らかしている様子すらもいつものままで、
トキヤは一瞬言葉を失ってしまった。

「……音、也」
「昨日何も言わずに外泊しちゃってごめんね!バイトおつかれさま!」

ただひとつ違いがあるとすれば、その笑顔に少しだけ翳りがあるところだろうか。
きっとただのクラスメイトでは気付かないであろう些細な違いだったが、
彼のことを誰よりも傍でずっと見ていたトキヤにはすぐにわかった。

――音也に、無理をさせている。
そのことがどうしようもなく苦しくなってしまったトキヤは、
荷物を床に置くとそのまま踵をかえしてドアへと向かう。
直後に荷物が崩れたどさりという音が聞こえ、それには振り返ることのなかった彼も、
ぱたぱたと駆け寄ってくる愛しい足音を無視することはできなかった。

「トキヤ、待って!どこ行くの?」
「今日はレンのところへ泊めてもらいます」
「どうして?え、あ、約束してたとか…?」

トキヤの袖をきゅっと握り、まるで捨てられる仔犬のように見上げてくる音也の瞳。
とても目を合わせていられなくて、トキヤは一旦は振り返ったもののまた正面を向いてしまった。
それでも、音也は諦めずに話しかけてきてくれる。本当は嬉しいはずなのに、
何故だかトキヤは彼の真っ直ぐさを受け入れられないでいた。






改定履歴*
20111101 新規作成
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