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弟の恋人に、恋をしました。 -6-

くす、と笑う声がきこえて差し出されたのは、HAYATOの指だった。
訳がわからないうちに、それを口の中に突っ込まれる。
されるがままに舌をそれに這わせると、いいこ、と頭を撫でられた。
よくわからないけれど、ようやく与えられたいつもと同じ触れあいに、少しだけ音也の緊張が和らぐ。
けれどそれは、本当にほんの一瞬だった。
緊張の解けた音也の後孔に入ってきたのは、自分が先程舐めたHAYATOのしなやかな指だったのだから。

「っひ、痛…っ、やだ、やだ、あっ」
「……え?まだ指だよ?」
「いたい、抜いて、ぬいて、…HAYATOぉっ」
「え…」

きっとこれくらいなら、いつもしているだろうから大丈夫だろう…HAYATOはそう思って、
潤滑剤もなしに指を入れたのだ。けれど音也は驚いたように目を見開いて、ただ痛みだけを訴える。
まさかとは思うが、この反応は、これは――…

「もしかして、…セックスしたことない、とか」

心に浮かんだ疑問が不用意にHAYATOの口から零れ落ちた瞬間、音也との間の空気が凍る。
一瞬の間の後泣き出しそうになる音也の表情に、HAYATOは自らの予感が現実なのだと確信した。
けれど、まさか、信じられるだろうか。学生時代は寮で共同生活をして、
卒業してからも公私共にパートナーである二人が、まだセックスをしていなかっただなんて。

「音也くん、ホントに…?」
「……トキヤは、痛いことはしないって言ってくれて、それで…」
「ごめん、もう痛くしないから」
「嫌だ、離してよ…HAYATO、おねがい」

涙ながらに訴える音也の瞳に偽りはないし、指を挿入しただけであの反応だ。
まだふたりがセックスしていなかったというのは本当なのだろう。
いや、彼の言葉を聞く限り、何度か挑戦してまだ成功していないという所だろうか。
『弟の恋人を寝取る』先程自分が言った言葉が、今になってやけに現実味を帯びてくる。

ずっとずっと一緒に育ってきた大事な弟が、未だ抱く事もせずに大切にしている恋人を、
今自分が組み敷いている。トキヤに悪いと思わなかったわけではない。
ただ、それ以上にこの腕の中の温もりが欲しかった。
いつも笑顔で、かわいくて、自分に元気をくれる音也のことが。

――まだ誰にも開いたことのないからだを、このまま無理やりにでも繋げてしまったら、
 全部ボクのものになってくれる…?

頭に浮かんだその予感をどうにか現実のものにしたくて、HAYATOはこくりと唾を飲み込むと、
そのまま静かに言葉を紡いだ。

「『HAYATO』が嫌なら、ボクのこと『トキヤ』だと思って」
「そんなの無理…っ」
「大丈夫、できるよ」

すうっと息を吸ったかと思うと、一度は離れていた距離がまたぐっと近くなる。
HAYATOは一度だけ音也の頬にキスを落とすと、そのまま耳元に形のよい唇を寄せた。

『――音也』

瞬間、音也の背筋をぞくりと快感が駆け上がる。
耳元で囁かれた声は、愛しい恋人であるトキヤそのものであった。

『あいしてます。あなたを抱きたい』

不毛なことをしていると自分でも解っている。
こんなことをしても、音也は自分ではなくトキヤに抱かれていると思うだけ。
結局、彼のこころは手に入らないのに。

やめるなら今のうちだ、今ここでやめれば、きっと元通りの関係に戻れるだろう。
音也に覆いかぶさるHAYATOの手は、知らずベッドのシーツをぎゅっと握り締めていた。

『…音也、返事は…?』

けれど腕の中の彼がじっと自分を見つめる瞳がまるで誘っているようで、言葉を止めることができない。
終始戸惑っていた音也が、こくん、とちいさく頷いた瞬間、HAYATOの中でひとつ覚悟が決まった。

今は、トキヤの代わりでいい。だって優しくて素直な彼はきっと、一度でも自分と
セックスをしたら、何食わぬ顔をしてトキヤの付き合いを続けることなんてできないだろう。
もしかしたら事実を知ったトキヤに手ひどく振られるかもしれない。
その時自分が傍にいて慰め続ければ、きっといつか彼は自分のことを見てくれる――

醜いと蔑まれてもいい、狡いと罵られてもいい。
弟の恋人を奪うのに、なりふりなんて構っていられないのだ。







改定履歴*
20111116 新規作成
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