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弟の恋人に、恋をしました。 -12-

結局HAYATOは、からだが冷え切ってしまうまでツリーを見上げて過ごす事になった。涙が後から後から滲んでしまって、おさまってくれなかったからだ。ようやく落ち着いてタクシーを拾い、自宅マンション近くで降ろしてもらう。マンションのエントランスまで送ってもらわず少し距離を歩くのは、程近い距離に音也のマンションがあるからだった。ほんとうにかっこわるいけれど、すれ違うことを心のどこかで期待してしまうのだ。

だけど、今まで一度だってそんな偶然はないし、今日だって同じ。音也どころか誰ともすれ違わないままにもうエントランスが見えてきてしまった。先程あんなに真剣に神様にお願いしたのにな、と心の中ですこしだけ笑いながらマンションまでの道のりを歩いていると、街灯すらもちらついていて、自分が通りかかる瞬間にふっと消えてしまった。何をやってもうまくいかない自分にまっくらな道がなんだかお似合いだな、と、いつも明るすぎるくらい明るくて前向きなHAYATOらしくない事まで考えて…、ぴたりと足が止まる。

こんなに寒い日だというのに、エントランスのベンチにひとりの青年が座っている後姿が見えたからだ。赤い髪をした青年は突然消えてしまった街灯に一瞬驚いたように顔をあげて――…それでも帰ろうとも部屋に入ろうともせずまた寒さを堪えるように背中を丸めた。街灯は消えてしまって真っ暗、だけど、見間違える訳ない。だってそこにいるのは、もう何度も、本当に何度も、それこそ夢に見るくらいに焦がれた姿なのだから。


「――あ」
「…音也、くん」
「HAYATO…」

――どうして?どうして音也くんがここにいるの。だって今日はクリスマスで、音也くんはトキヤと過ごしている筈で、自分のことなんて思い出す隙間なんて、ない、筈なのに。

なにひとつ言葉にできなくて、彼の傍に近寄ることもできない。音也に逢いたい、笑顔が見たい、すれ違うだけでもいいとあんなに願っていたはずなのに、実際に本人を目の前にするとこんなになってしまうだなんて想像もしていなかった。

現役アイドルがこんな寒いとこにいちゃダメだよ、風邪ひいちゃうよ、歌えなくなったらどうするの?そう言うべきなのに、それも言葉にできず涙に代わる。瞳いっぱいに溜まった涙が零れないようにするのが、精一杯だ。音也はベンチからすっと立ち上がると、突っ立ったまま動けずにいるHAYATOの正面に立って、ふわりと笑ってみせた。

「なんで、ここにいるの…?」
「あ、ごめんね、迷惑かと思ったんだけど、ちょっとだけHAYATOの顔見たくなっちゃって」
「違、…トキヤは?だって、今日は、クリスマスなのに」
「…ちゃんと、さよならしてきた」
「え、」
「トキヤは、わかりましたって言ってくれたけど、多分嫌われちゃったかな」

――今、彼は何ていった?顔が、見たかった。…自分の?いや、それより、トキヤと、さよならって……?

掠れた声でようやく紡いだ言葉に対する音也の返事は、まるで夢のようなものだった。頭の中がぐちゃぐちゃになってしまって、何も処理できない。音也はそんなHAYATOの目に涙が溜まっているのを見ると、困ったように笑って指先でそぉっと拭ってくれた。

「ごめん、音也くん。ふたりの仲を壊すようなことして」
「ちがう、俺が悪いんだよ。俺がトキヤの顔見れなくなっちゃったんだ」
「ボクがあんなことしなければ――…」
「あの日HAYATOを受け入れるって決めたのは俺だよ、HAYATOだけが悪いんじゃないよ」
「っでも、」
「あのねHAYATO、HAYATOが毎日まいにちメールくれるから、もうおれ、HAYATOのことしか考えられなくなっちゃった。トキヤの顔見れなくなっちゃって、もう、だめで」
「メール…ごめ、」
「ううん。うれしかったんだよ」
「……」
「ずるいって言われるかもしれないけど、きらわれるかもしれないけど、…でも俺、今日はクリスマスで特別な日だから、HAYATOに逢いたかったんだ」

――ああ、ボクはどこまでかっこわるいんだろう。泣くのを堪えるので精一杯で、この目の前のいとしい人の目に涙が溜まっているのにも、少しだけ声が震えているのにも気付いてあげられなかった。その上、逢いたかった、って言葉も全部全部、彼に言わせて。

ようやくそのことに気付いたHAYATOは、すこしだけ自分より身長の低い音也のからだをぎゅうっと抱きしめた。ツリーの前で、あれだけ我慢していた涙がぼろぼろと零れてしまったけれど、もうそんなのどうでもよかった。涙を堪えることよりも、ほかにやるべきことがある。自分も、音也のように気持ちをまっすぐに伝えたい。伝えないといけないんだと、気付いたから。

「ボクも、今夜逢いたい人は一人だけ。音也くんだけだったよ」






改定履歴*
20111225 新規作成
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