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弟の恋人に、恋をしました。 -11-

それ以来、HAYATOは音也に直接話しかけようとすることはなくなった。その代わりに、毎日朝と夜にメールを送った。当たり障りのない話題と、音也に呼びかけるように名前を入れることを忘れないようにして、毎日毎日。

『おはやっほー、今日もさむいねっ!音也くん、お仕事がんばってにゃ!』
『音也くん今日も一日おつかれさま!今日のお仕事はどうだった?ボクはかっわいいにゃんこのあかちゃんと共演してすっごく癒されたにゃー。おやすみー!』

初めから返信は期待していなかったけど、実際にないとそれなりにへこんでしまい、勝手に送りつけておいて自分も随分我侭だなと自己嫌悪に陥りそうになったりもした。それでも、メールを送るのをやめることはできない。頼りない、独りよがりな繋がりだったけれど、これがなくなったら本当に音也との接点がなくなってしまう気がして。

『音也くん、おはやっほー!今日はクリスマスだねっ。音也くんが素敵なクリスマスを過ごるようにボクも祈ってるにゃあ!』

だから今朝もいつもどおり、HAYATOは音也にメールを送った。けれど、やっぱり返信はない。トキヤからも何も連絡はこない。彼は元から必要最低限の返信しかしない性格だから、いつもどおりと言えばいつもどおりだけれど。ただ、あれだけいつも3人で仲良くしていたのに、今となってはそれが現実だったのかどうかも曖昧だ。



『トキヤに振られた音也くんを、自分が奪ってしまおう』

あの日確かにあったその目標は、既にHAYATOの中で効力を失っていた。かわりに彼のこころにある願いは、『以前のように音也に笑って欲しい』ただそれだけだ。もう、音也の傷付いた顔を見たくない。お願いだから、以前のように笑っていてほしい。たとえそれが自分に向けた笑顔でなくても。

そのためにはもう彼をトキヤから奪うなんて考えてはいけない。音也の初めてを奪った自分が彼に近づけば、多かれ少なかれ二人の関係に亀裂が入り、また泣かせてしまうだろう。音也にずっと笑顔でいてもらう為には、彼のことは諦めるしかないのだ――そう頭でいくら理解しようとしても、こころが全然納得なんてしてくれない。

ほんの一ヶ月前まで音也が自分に向けてくれていたあたたかい笑顔を、可愛い声を思い出すだけで、彼を自分だけのものにしたいと胸が苦しくなる。メールの返信がない、それが音也の答えだと頭の片隅でわかっていても、送るのをやめる事をできずにいる。

結局、自分は音也のことを諦めきれていないのだ。本当に自分勝手で反吐がでそうだ、と自嘲してみても何も変わらない。

友達でもいい、音也に会いたい、あの笑顔を間近で見たい。けれどもし叶うならば、自分だけに笑いかけて欲しい。ずっと彼の傍にいて、あたたかいぬくもりをこの手に閉じ込めておきたい……きっと世界でいちばん狡くてカッコ悪い考えだけれど、それが、今のHAYATOの本音だった。



「……はぁ、」

知らず滲んできた涙を拭うのはなんとなく気恥ずかしかったから、HAYATOはぐっと息をとめて空を見上げた。視線の先には、大きなクリスマスツリー。昨日までは鬱陶しくて仕方なかったきらきらと輝くそのツリーに、今だけは本気で感謝したくなった。こうやってずっと上を見上げている姿を不思議に思った人がいたとしても、目線の先にツリーがあればきっとそれを見ているのかと思ってくれる。誰も涙を堪えるために上を向いているなんて気付かないだろう……そう思って。

HAYATOのきれいな青の瞳には、見上げたツリーのむこうにビルの隙間から空が見えた。イルミネーションやビルの明かりで星は見えないけれど、確かに空だ。神様なんて信じたこともないけれど、もし居るのならあの空のむこうにいるのだろうか。

――かみさま、本当にそこにいるのならば、どうかどうか、もう一度。たった一度きりでいい。ボクにチャンスをください。






改定履歴*
20111225 新規作成
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