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弟の恋人に、恋をしました。 -10-

それから一ヶ月経った今日まで、音也と――それから、トキヤと仕事以外で顔をあわせることはなくなった。仕事で会う時も、以前のように兄弟や友人として接することはない。音也は自分と視線を一度も合わせようとしてくれなかったし、話しかけようとする度にトキヤが必ず間に割って入った。氷のように冷たい視線と口調に、きっとバレてしまったんだろうと推測する。

それはそうだ、『恋人であるトキヤ以外と初めてのセックスをした』なんて重要なこと、音也が隠しきれる筈がない。彼は良くも悪くも裏表のない性格で、たぶん嘘をつくのが世界でいちばん苦手な人物だろう。

バレたのに別れていないということは、和解したのかだろうか、と考えたこともある。そうであれば、もう本格的に自分の入る余地はないだろう。けれど傍から見ている限り、トキヤと音也の間に漂う空気が甘いものかといえばそうではなく、むしろぎこちなく刺々しいものだった。きっとトキヤは、自分以外にからだを許してしまった音也のことをまだ完全には受け入れきれていないのだろう。いや、受け入れたいけれどこころがついていかない、そんなところだろうか。

完璧主義者で自分にも他人にも厳しいトキヤには、音也のことを許せる日がこないかもしれない。もちろんそれをトキヤから直接聞いたわけではないが、日ごとに重くなってゆく二人の間の空気がそれを物語っていた。天真爛漫という言葉がぴったりだった音也の表情からも明るさが消えてゆくのがありありとわかる。

HAYATOは一度だけ、トキヤがいない間に音也に話しかけようとした事がある。けれど音也の名前を呼んだ瞬間にびくんと震えた肩と、無理やりいつも通りに明るく振舞おうとしてくれた彼の表情の向こうにあるつらい気持ちが透けて見えた気がして、思わず泣きそうになってしまった。そのままトキヤが戻ってくるまでの長くも短くもない間、とうとう次の言葉を紡ぐ事ができなかったのだ。



どうしてだろう。自分はこうなることを望んでいた筈なのに。事実を知ったトキヤに、音也が手酷くふられるのを期待していたではないか。悲しむ音也のことを誰よりもいちばん近くで慰めて、自分が奪ってしまう筈だった。だから彼の元気がなくなることだって予想の範囲内で、むしろこれでもうすぐ二人が別れるかもしれない、計画は順調だと喜んでいる筈だったのに。

――けれど、こんなのは予想外だった。HAYATOはしあわせそうに笑う音也を自分のものにしたかっただけで、……彼の悲痛な、今にも泣き出してしまいそうな表情を見たかった訳ではないのだ。






改定履歴*
20111225 新規作成
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