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弟の恋人に、恋をしました。 -9-

「……寒い、にゃあ」

ぱちん、と携帯を閉じると同時に口から零れ落ちた言葉が耳に届いて、余計に寒くなったように感じた。こんな日に限って忘れてしまった手袋を少しだけ恋しく思いながら、冷たいてのひらの感触を確かめるように数度握ったりひらいたりを繰り返す。こうやって思い出すのは、弟の恋人である音也を抱いた日のことだ。

あの日は初めて、この手に音也のぬくもりを手にいれた。こどものようにあたたかいからだを組み敷いて、本物の恋人のように指を絡ませて、幾度も幾度も、『音也』と愛しい名前を呼んで。息継ぎも忘れるくらいに激しいキスで目を潤ませる音也のことが愛しくて堪らなくて、何度もイってしまいそうになるのをぐっと我慢したことを覚えている。イってしまえば、このぬくもりを離さないといけないんだと思ったから。

『『HAYATO』が嫌なら、ボクのこと『トキヤ』だと思って』

トキヤでなければ嫌だ、と拒否する音也を手に入れるためならどんな手段も厭わないと決心したHAYATOは、彼の恋人である双子の弟になりきることを決めた。今だけはトキヤの代わりでいい、いつか自分を見てくれればいい――そう思って。芸能界で身につけた演技力や精神力、そのすべてを使って弟のふりをしたが、最後の最後で我慢できなかった。可愛らしい喘ぎ混じりに弟の名を呼ぶ彼のくちびるが、自分の名前のかたちにうごくことを夢見てしまったのだ。

『音也くん、…『ボク』を見て。ボクはトキヤじゃなくて、HAYATOだよ』

射精を終えて、まだからだを繋げたままの状態でそう告げた時の音也の表情は忘れられない。彼は、HAYATOの頬を伝う涙を見て自分が犯されたことも全て忘れたように申し訳なさそうな、苦しそうな表情で、自分に覆いかぶさる男のくちびるに一度だけキスをした。

その夢のようなキスがただただ嬉しくて、HAYATOはその夜、あたたかいからだを逃がさないように、まるで捕まえておくようにぎゅうっと後ろから抱いて眠った。けれど朝になると腕の中のぬくもりは消えていて、今と同じように手を握ったりひらいたりしたことを覚えている。しばらくは触れられないであろう昨夜のいとしい感触を思い出して、自分のこころに刻み付けておくためだ。

――恋人の兄だと思って気を許していた男に無理やり抱かれて、彼はどんな気持ちで、ボクの部屋を後にしたのだろう。眠っている自分を残して部屋のドアを閉めるその瞬間、彼の心を占めていたのは、やはり、……嫌悪感、だろうか。自分のことを嫌いになってしまった?もう会いたくないと、そう思っているのだろうか。

自分の恋人を兄に寝取られたなんて全く知らずに別の部屋で寝ていた弟は、朝になると簡単に部屋の掃除を済ませて帰ってくれたようだった。きっと、自室から出てこない自分を起こさないようにと気遣ってくれたのだろう。本当に、兄想いのいい弟だ。…自分は、そんな風に扱ってもらえるような兄ではないのに。

HAYATOはひとつため息をつくと、もやもやした気持ちを振り払うように首を横に振った。






改定履歴*
20111225 新規作成
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