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magnet -8-

「トラファルガー、顔見せろよ」
「や…っ、はなせ!」
「こっち向けって」
「――〜っ無理!」

先程から、一体何度このやりとりを繰り返しただろうか。
中に出されたのはまだ許せたローも、それを掻き出されるという行為が
ひたすら恥ずかしかったらしく拗ねたように背を向けたままキッドの方をけして見ようとしない。
今は腰の痛みとだるさでここに居てくれているけれど、
少し楽になったらきっと彼は無理やりにでも船を降りてしまうだろう。

キッドにとって、素直になるまで力ずくでここに居てもらうのは簡単なことだったが、
できるだけそれは使いたくない手段だった。
なにしろ、待ち伏せなんて似合わない手段まで使って捕まえた
『初めて愛しいと思えた相手』が今自分の腕の中にいるのだ。

「…ロー」

どうか機嫌をなおしてくれとの願いを込めて囁いた声は
とびきりあまいものだったようで、ローはびくんと肩を震わせると
まっかな顔をして後ろを振り向いた。

「…っえろい声で喋んな変態め」
「わざとじゃねぇし。おまえが振り向いてくんねぇから名前呼んだだけだろ」
「大体何で下の名前呼ぶんだよ」
「好きだからだろ」
「からかうな!」
「好きって言ってんのがなんでからかうことになんだよ」
「…だって」

折角振り向いたというのに、受け答えといい反応といい、
ローはまるで人慣れしていない野良猫のようだった。
これまで言い寄る女はいても自分から追った経験なんて思い出せないキッドにとっては
初めての反応で、余計に腕の中の男が愛しくなる。

「はぁ、もーオマエどーやったら信じてくれんの?
 せっかく本屋で待ってたのに逃げるしもう会わねぇとか言われるし、
 こうも拒否されっとけっこう辛いもんがあるんだけど」
「お、おまえ気付いてたのか!?」
「あたりまえだろ。なのに逃げやがって。なんで逃げんだよ」
「…」
「会いたくなかった?っていう返事もまだ聞いてねぇぞ。本格的におれの事きらい?」
「……」
「ならもう諦める」
「あ、諦めんなバカ!!」

『押して駄目なら引いてみろ』とはよく言ったものだ。
少し声のトーンを落として寂しそうにしてみるだけで、
ローは簡単にキッドの思惑に引っ掛かってしまった。
あまりの素直な反応に思わず笑いそうになってしまったが、ここで笑っては全てが台無し。
キッドはローを思い切り撫でて甘やかしてしまいたい気持ちをぐっと押し殺した。

「逃げたっていうか…まぁ避けたのは、おまえの顔みるのが怖かったからだ」
「何でだよ」
「――〜っ、好きになりそうだったからだよ!」
「え」
「昨日のこと、起きたら忘れてて。でも暫くしたら思い出して、
 なんつーか、嫌じゃなかったんだよ。男にヤられてんのに」
「それって…」
「おまえが、すげーやさしくおれに触るから…っ
 その上好きとか言うのが悪いんだからな!」

セックスの最中や終わった直後は、あれだけ言っても目線を合わせてくれなかったのに、
こんなに可愛らしいことを真っ直ぐ見つめたまま言われては、
キッドは顔が赤くなるのを抑えられなかった。
もう限界とばかりに細身のからだを抱きしめれば、ローは一瞬からだを固くするものの
今度は大人しく腕の中に納まってくれる。
ただそれだけのことを、ひどくシアワセだと思った。

「なんだおまえ、おれのこと好きなの?」
「…おまえのせいで好きになった。責任とれよ!」
「わかってる、責任って?どーすればいい?」
「とりあえず腰とからだがだりぃから今日はここに泊まらせろ」
「言われなくても帰す気はねぇな」
「布団代わりにモフモフのコートはおれのものな」
「まぁ…朝には返せよ」
「あと、女買うの禁止」
「おまえで手いっぱいでそんな暇ねぇよ」
「それから、…」
「?」
「『数え切れないほど気持ちよくさせてやる』っていうの、もう終わりか…?」

キッドの腕に閉じ込められたままのローがすこしちいさな声で紡いだ、
先程までのツンツンした態度からは想像つかないくらいの可愛らしいおねだり。
それを聞かされたキッドは、思わず表情が緩むのを抑えきれないのだった。


「おまえがいいなら、朝までだって抱いててやる。やっと手に入れたんだ」






改定履歴*
20110908 新規作成

きりおお誕生日おめでとう*´`*

私が初めて書いた二次創作小説、『first contact』1〜3話の
翌日のお話という裏設定で書きました。
実は当初は3話目で完了で、後から翌日談である4話目を思いついて書いたのですが、
それとは別軸で、こんな翌日でもいいなぁと思って書きました。
久々わんぴ、久々キドロでとても楽しかったです!

タイトルのmagnetはキッドの能力から。
ほんとは磁石というより磁力なんだろうなぁと思いつつも、
磁力を現す英単語が聞きなれないものだったので
magnetに落ち着きました。
人を引きつける人、ものっていう意味もあるようです。
私の中でキッドは『とても目立ってひとを惹きつける、太陽っぽい人』
っていうイメージなので、合っているのかなぁと思います。
- 8/8 -
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