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magnet -6-

酒場の賑やかな音が遠くに聞こえ、ここちよい夜風が自分のからだを包む。
ふわふわと身体が宙に浮いている感覚に、自分はおぶわれているのだとうっすら気付いた。
やわらかな毛皮が頬に触れて、あぁなんだベポか、迎えにきてくれんだと頬擦りをする。
今思えばどうしてその時気付かなかったのか、いや、目さえ開けていれば
こんなことにはならなかったのにと数分前の自分を叱り飛ばしてやりたい気持ちで一杯だ。

けれど今更そんなことを言っても始まらないし、それより、
ローにとってはいかにして何事もなくこの船を下りるかが問題だった。
そう、ユースタス・キャプテン・キッドの船なんて。

「起きたか?」
「何連れ込んでんだてめぇ!」
「ご挨拶だな。店で寝こけて起きないおまえが悪いんだろうが」
「起こせよ!」
「いくら起こしても起きなかったやつが言うセリフかよ」

ローが目を開けたのは、キッドのベッドに寝かされた直後だった。
自分をおぶってくれていると思いこんでいたベポではありえない、
濃厚なキスをされる感覚に驚いたのだ。

「…し、しかも今、その」
「ああ、キス?」
「キスとか言うな!」
「何今更照れてんだよ、昨日もっとすごいのしたろ」
「覚えてねぇよ!!しね」
「口わりぃなぁ…」
「うるせ…んんっ!」

目を覚ました途端に文句ばかり言うローの口は、
ちょっと黙ってろ、というようにキッドにキスで塞がれてしまった。
開いていた唇からするりと舌をいれられて、口内の隅々までを優しく蹂躙されてゆく感覚に力が抜ける。
ローの唇の端からは飲み込みきれなかった唾液がつうっとひとすじ零れ落ち、
拒絶するようにキッドの肩を押し返していた手は
いつの間にか縋るようにコートをきゅっと握りこんでいた。

「ん…っは、ぁ」
「思い出したか?」
「…」
「まだ足りねぇならもっとしてやるよ」
「っ!!い、いい!もう十分だ、思い出した」

できる事なら昨夜のことは忘れた事にしかたったローだが、
ベッドの上に組み伏せられ、今にも犯されそうな状況で意地を張る程馬鹿ではない。
ここは素直に昨夜のことを認め、今日酔いつぶれたことを謝罪して、
さっさとこの船を降りることを優先するほうが賢いと判断した。

「昨日、の事は、おれは犬に噛まれたと思って忘れるから」
「どっちかっつーとおまえはネコだったけどな。かぷかぷ噛み付いてきて、ほらここに歯型が」
「うわぁあっ脱ぐな見せるな!…それから、今日も飲みすぎて悪かった」
「おまえ酒弱いなぁ。おれ以外のヤツの前で潰れんなよ」
「もう金輪際ひとりでは飲まねぇ。だから安心しろ」
「おう、おれと一緒のときだけにしろよ?」

慎重に言葉を選ぶローと、それを聞いているのかいないのか、
そ知らぬ顔をして髪や額にキスを落とすキッド。
ローはじゃれてくる大型犬のようなキッドを窘めながら、
思い切って心に決めた言葉を真っ直ぐに口にした。

「おまえとは、もう会わない」
「はぁ?」
「つーか、元々おれたちは敵同士だろ。馴れ合うのがおかしいんだよ」
「まぁそうだけど、おれは…」
「とにかく!!おれはもう酔いも醒めたし帰るから。じゃーな」

どけよ、と小さい声で言いながら自分に覆いかぶさっているキッドの肩を
ダメ元で押しのけれてみれば、案外素直に退いてくれた。
ローは内心ほっとしながら起き上がり靴を履いて、ベッドを後にした…筈だった。
大きくてがっしりとした腕が、ローを後ろから捕まえなければ。

「な、に、ユースタス屋…おれ、帰る」
「ハイそーですかって、帰すとでも思ったか?」
「っ、ちょ、手、離せって」
「離したら逃げんだろ?」
「あたりまえだろ…っおれはオトコに突っこまれる趣味はねぇんだ、昨日のは酒の勢いで」
「おれだって男に挿れる趣味はねえ。けど、おまえは別」

ベッドに座ったままのキッドに後ろから抱きしめられた体勢のローが
慌てて上半身を捻り後ろを振り向くと、あの赤い瞳がじっと自分を見上げていた。

「なぁトラファルガー」

焦っている自分とは対照的に、落ち着いた低い声で名前を呼ばれると、
またどくんと心臓が高鳴る。顔に一気に熱が集まり、かぁっと赤くなるのがわかった。

「な…に、」
「もう一度会いてぇって思ってたのはおれだけか?」
「は!?」
「昨日ヤって、いやだったか?もう顔も見んの嫌?」
「嫌っていうか…」
「おれはもう、おまえを手放す気ねぇんだけど」

つかまれた腕をゆっくり引かれて囁かれる言葉には、まるで引力があるみたいだった。
ああそういえば、こいつの能力はそういうタイプのものだったな。
会いたくないのにまるで引き合うように出会ってしまって、
今だって、本当ならば能力でも何でも使って、逃げればいいのに。

「…逃げねぇの?」
「うるさい…っ」

――おれは本当にばかなのかもしれない。
瞬きの音すら聞こえるくらいの至近距離で囁かれる挑発の言葉を、自らキスで塞いでしまうなんて。
でもやられっぱなしは性に合わねぇんだ。流されるよりも自分で選びたい。

ローはそんなことを思いながら、今度はぐっと抱き寄せられて与えられるキスを目を瞑って受け入れた。






改定履歴*
20110908 新規作成
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