top * 1st * karneval * 刀剣 * utapri * BlackButler * OP * memo * Records

magnet -5-

会いたくない時に限って、会ってしまう。
傍迷惑なそのジンクスは、この世界においても健在なようだ。

朝いちばんに言い渡された『一日休養宣言』を無視し、
ペンギンの目をかいくぐって抜け出した先の街の本屋へ向かうローは、
あと数十メートルというところで目的地付近に見慣れた赤がいるのに気付いた。

――本なんて微塵も似合わねぇ男がこんなトコに何の用だ、全く今日はついてねぇな

幸いにもキッドはまだローに気付いていないようで、
ローは今のうちにとそっと身を隠すように帽子を深く被り、今来た道を戻ってゆく。

「まいったな…」

曲がり角を曲がってほうっと一息ついたところで、まだ夕方だというのに酒場に立ち寄った。
適当に時間を潰して戻れば、もうあいつはいなくて今度こそ本屋に入れるだろう…そう思って。
けれど『気付いていない』というのはローの勘違いだったのだ。
だってそうでなければ、今避けてきたばかりの男とこんなにも早く再会するはずなどないのだから。

「よお、トラファルガー」

ローは本来、むやみに目立つことを好まない。
カウンターの隅に座りグラスを傾け初めた直後に、こんなに目立つ男が横に座る――
ただそれだけで不機嫌になるのだ。しかも、今隣にいるのはいちばん会いたくなかった男。
昨日自分を組み敷いた男だからなおさらだ。

「今日はひとりか?」

キッドはローが眉間に皺を寄せて黙っているのに気付いているのかいないのか、
適当に注文を済ませて無遠慮に話しかけてくる。
ローはわざとらしく首を横に大きく振ると、
できるだけ低い声で突き放すように、返答のみを口にした。

「何か用か」
「あ?なんだよ急に、つめてぇな」
「急に話しかけてきたのはおまえだろ」
「…ご機嫌斜めってやつか?」

けれどそんな嫌味もキッドには通じていないようで、
彼は困ったなと笑いながら全く困ったように見えない笑顔でローの頭をわしゃわしゃと撫でる。
大きくてごつごつした、キッドのてのひら。
自分のものとは随分違うそれに少しだけ心臓が跳ねたことを誤魔化すように、
ローは強い酒を一気に煽った。
『そんなに飲んでっと、昨日みたいに潰れるぞ』そんなキッドの忠告は、耳に入らないふりをして。






改定履歴*
20110908 新規作成
- 5/8 -
[] | []



←main
←INDEX

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -