magnet -4-
純粋に、本当に、飲みなおすだけのつもりだったのだ。
ふたりだけでゆっくりと、色々な話をしたくて。
適当に寛げる場所を求めた結果自船を思いついた事、
目新しい酒を肴についつい飲みすぎた事が、敗因といえば敗因だろう。
気がついた時には、ローは自分に覆いかぶさっているキッドのことを見上げていた。
ローも驚いたが、押し倒したキッド自身もそれは同じだったようで、
一瞬だけ赤い瞳が戸惑うように揺れたことを覚えている。
こういうことの経験が、ないわけではなかった。
ローは見た目もいいし、言い寄ってくる命知らずな女は数え切れない程。
ただし、相手が同性というのは初めてだ。もちろん、後ろに挿れられるなんてことも。
ローが感じるのは、鈍い痛みと自分のからだの境界線がわからなくなるような感覚だった。
痛くて痛くて、ローは何度やめてくれと叫びそうになったかわからない。
けれどその度、自分だけが映っている赤の瞳に見惚れ、
吐息交じりに名を呼ばれる声に背筋がぞくぞくと歓喜に震えて。
そのうちに身体が勝手に痛みの奥に確かにある快感を拾い出し、
結局、ローは最後まで絡められた指を解くことはできなかった。
「…ありえねぇ」
今しがた思い出したことの全てを認めたくなくて、
これは全部夢だと思い込もうとしても、からだの痛みが現実なのだと告げている。
何より、見た目と違う手触りのよい髪を梳くように撫でた感覚が、
ローの手にはしっかりと残っていた。
改定履歴*
20110908 新規作成
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