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magnet -1-

ふわり、と室内の空気が動く気配がして目が覚めた。
続いて感じるのは、目を閉じていてもわかる眩しい光と、
ぱちん、ぱちんとシャボン玉が弾ける微かな音。

シャボンディ諸島特有の幻想的な光景と音をいたく気に入ったローは、寄航した翌日に
『この島にいる間、毎朝扉と窓を開けて外の空気を入れるように』との指示を出した。
敬愛する船長の指示をクルー達は忠実に守り続け、
今日もいつも通りに、朝の空気を入れる為扉と窓を開けに来た、と言うわけだ。

「船長」
「……ん…」
「おはようございます、朝ですよ」

耳に届くやわらかな声は、幼い頃からずっと一緒に育ってきたペンギンのもの。
ローよりいくつか年上の彼は、『海賊王になりたい』というローと共に島を出た。
血の気の多い性格のローは敵を作りやすかったし、
戦闘能力と医療技術には長けていたが航海術には明るくない。
元々聡明だったペンギンはそうなる事を見越して、
航海に必要な全ての知識と技術を身につけたのだ。

「船ちょ…ロー、おはよう」

おかげで、数年経った今でも変わらず彼はローにとって兄のような存在で、
二人きりのプライベートな時だけは『船長』ではなく名前で呼んだ。
そんなときは、普段の男性らしい低くて事務的な声ではなく
まるで愛情が見えるようなあまさを含んだ声になってしまうのが彼の癖らしい。

「ペン、おは…っけほ、かはっ、」
「大丈夫か?ひどい声だ」
「ん…っ、喉いてぇ」
「昨日色々あったから、疲れが出たのかもしれないな」

もちろんローだって、こどもの頃と同じ優しい声で呼ばれるのは好きで、
その声に誘われるままからだを起こそうとしたのだが、
おはよう、と言いかけたところで咳き込んでしまい、声を出すのもままならなかった。
痛いのは喉だけかと思ったけれど、身体中がひどくだるくて、起き上がることすら満足にできない始末。

「――ロー、これ…」
「え?」

それまで、声と同様にやさしい雰囲気を醸し出していたペンギンの表情が一変したのは、
咳き込むローの額に心配そうに手をあてた時だった。
彼はローの首筋辺りにふと視線をやった後何かに気付いたようで、
ローが不思議そうに問い返してもそこをじっと注視したまま言葉を詰まらせる。
その見慣れた漆黒の瞳には、困惑と焦りの色が浮かんでいるのが見てとれた。

「…なんでもない。風邪だな。水と食事を持ってくるよ」
「?いい、起きる。熱っぽくねぇし、大丈夫だろ」
「無理するな、いいから寝てろ」
「んー…でも、今日おれ島で本を」
「いいから!!ちゃんと服着て、おまえは今日一日休養だ。いいな?」

椅子に掛けてあったパーカーをぐいと押し付けられ、言葉を途中で遮られて
強い口調でそう言われては、流石のローもただ頷くことしかできない。
ローの戸惑ったような瞳を見て、知らず自分が語調を強めてしまったことに気付いたのだろう。
ペンギンは、波立った自分の感情を落ち着かせるようにひとつちいさなため息をついて
『明日にはきっと治るから』と取り繕うように根拠のない慰めの言葉を口にした。






改定履歴*
20110908 新規作成
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