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僕の悪魔 -8-

シエルが大好きな、セバスチャンの瞳。初めて涙の膜越しに見るその紅茶色はとても綺麗だったけど、
当の本人は自分が涙を零しているということにすこし驚いているようだった。
そのうちに悪魔の目から零れ落ちた涙がひとしずく、ぽたりとシエルの頬に落ち、
セバスチャンは「申し訳ありません」と言いながらそれを手袋をした大きな手で拭う。

それでも涙は止まることなく、悪魔が慌てて瞬きをすれば余計に零れ落ちてしまう。
『泣くのは初めて』と、彼は先程そう言っていたから、演技やわざとではないのだろう。
身長も手のひらもずっと自分より大きな、数え切れないくらいに年上の男が
こんな風に涙を見せるなんて…とそんなことを思うと、なんだか胸の奥がきゅうっと苦しくなった。

「…よく泣く悪魔だ」
「わざとではないのですが」
「僕を慰めてくれるんじゃなかったのか?」
「はい、これでは反対ですね」
「まったく、執事失格だおまえは」
「申し訳ありません」

体勢としてはソファに押し倒されて覆いかぶさられているというのに、
シエルは先程まで自分の方が大泣きしていたことも忘れ、まるで懐いてくる大型犬をあやすように
普段は身長差で届かない漆黒の綺麗な髪を梳くように撫でる。
いつもは自分がされる側で、こうされるととてもきもちよくて落ち着くということを知っていたから。

「悪魔の涙もしょっぱいんだな」

大人しくされるがままのセバスチャンの頬を伝う涙を舐めとって、さらりとそんな事を言う
シエルの穏やかな表情に誘われるように目を閉じる。
たったそれだけの事で、不思議なほどこころが落ち着いてゆくのが解った。
目を瞑っている間にも髪を撫でてくれる手の動きは止まらなくて、
幼いながらに精一杯気遣ってくれているであろう腕の中の恋人がひどく愛しい。

「らしくしろ、とのご命令でしたので。うまくできているでしょう?」
「…そうだな。まるでほんとうに、人間みたいだ。おまえは悪魔なのに」
「ええ、悪魔です。貴方だけの」

そういいながら大きな手で自分の髪を撫でていたシエルの手をそっと包んで頬へと滑らせ、
その手のひらにキスをひとつ。擽ったそうに身を捩るシエルの目元にもキスを落とせば、
ふたりを包む空気はぐっとあまいものへと変わってゆく。

「けれど叶うならば、貴方と一緒に人間として生きてみたかった、とも思います。
 過去も未来もいらない、貴方が居る今だけでいい」
「え」
「――もし私が悪魔でなければ、貴方を傷つけることもなかったのに」

たとえ人智を超えたちからと永遠の命をもつ悪魔といえども、過去を変えることはできない。
いくら願ってみてもそれはどうしようもなくて、ちいさな恋人もそれはちゃんと解っていて、
それでも、どうしても苦しくなるのは、お互いがお互いをどうしようもないくらいに好きだから。

「…ばかだな。おまえが悪魔だから出逢えたんだろう?」

ありえない『もしも』の話をしても何の解決にもならないことは解っていたけれど、
それが口をついて出るのを止められなかった悪魔に、シエルはふわりと笑ってそう答えた。

「おまえが過去も未来もいらないと言うならば、それでいい。
 嘘でもいいから、こうやって抱くのは僕だけだって言ってくれたらそう信じる」






改定履歴*
20110822 新規作成
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