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僕の悪魔 -7-

初めての恋でどうしようもない想いを抱えて乱れるシエルのこころを、
ゆっくりと撫でるような優しいキスは、"悪魔"には到底似つかわしくないものだった。

繰り返される行為の合間に垣間見える蒼と紫の両の瞳から零れ落ちる涙の雫を手袋で拭う、
その僅かな時間すら肌を離しているのが嫌で、悪魔はその雫をそのままぺろりと舐めとる。
それを受け入れるシエルの表情から、少しずつ悲しみが影をひそめてゆくのが何より嬉しかった。

「ん…っ、ん、ふぁ」

ようやく涙が止まったシエルの手をとってその白い甲にちゅ、とキスを落として
ゆっくりお互いの顔が見れる位置までからだを起こす間中、じっと離れてゆく唇を追っていたシエルの視線。
それと自分の視線が交わるのを合図に、手袋をした大きな手でさくら色に染まった頬を伝う涙を拭ってやる。
その手を頬に添えたまま安心させるようにやわらかく笑ってみせれば、
シエルはほっとしたような、まだまだ甘えていたいような表情を見せた。

「…私は、悪魔としてたくさんの時間を生きてきましたから。
 そのことで不安にさせてしまいましたね…」
「平気だと、思ってたんだ。だってわかりきっていたことだから」
「坊ちゃん」
「――けれどおまえと肌を重ねるたびにちょっとずつおかしくなっていって…
 最近では、おまえが僕以外の誰かをこうやって抱きしめたり
 キス…とかするのを考えると、僕は嫉妬でおかしくなりそうになる。
 平気だと思ってたのに、おまえの契約者は僕ひとりじゃないってことは
 はじめからわかってたことなのに、こんなことで困らせてごめん…」

泣きはらした瞳で、気丈に悪魔の紅茶色の瞳を見つめながらいつもより小さな声で紡がれた言葉。
それを聞いたとたんに、セバスチャンは腕の中の華奢なからだをぎゅうっと抱きしめていた。
どうしてこんなに我慢させてしまったのだろう、どうしてこんなに苦しませてしまったのだろう。

シエルの涙は、ずっと永い時を生きてきた悪魔と恋をすると決めた時の覚悟が、
我侭を言わないようにと幼いこころをずっと締め付けていた結果だった。
悪魔には人間のこころの些細な変化がわからないから仕方ないのだけれど、
セバスチャンにとってはシエルをこんなにも悩ませてしまったことが全て。

何故もっと早くに気付けなかったのだろう、誰よりも何よりも大切で、
大事にしたい恋人なのに、自分がいちばんに傷つけてしまった――…



「セバスチャン…?」
「…ごめんなさい、坊ちゃん」
「セバ…?泣いてる、のか?」

思い切り抱きしめられ身動きできずにいたシエルがもぞもぞと身じろぎして、
ようやく自由になった右手で自分に覆いかぶさっている男の頬をそおっと撫でる。
その細い指先にひとつぶの涙が触れ、今までになかった事態に驚いたシエルは
首を捻ってセバスチャンの顔を覗き込んだ。
その切れ長の綺麗な目元を縁取る長い睫毛は予想通り涙でしっとり濡れていて、
悪魔の涙を始めて見たシエルは目を丸くする。
けれどそれは一瞬で、すぐにその表情はふわりと柔らかいものに変わった。

「ふふ、悪魔でも涙は出るんだな」
「…そうみたいです」
「僕と一緒だ」
「はい。おそろいですね」
「どんな気分だ?」
「…ただ、不思議な気持ちです。泣く、なんてこと、…初めてですから」






改定履歴*
20110821 新規作成
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