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僕の悪魔 -5-

執事の特権は、ノックなしで主人の私室や執務室に入れること。
今日もいつもと同様に、きっちり時間通りにティーセットの載ったワゴンを押してやってきた執事は
執務室のドアノブに手を掛けた。

「失礼致します」
「…っ、待て、セバスチャン!」

ノック無用とはいえ、一声かけるのは彼なりのシエルへの気遣いだった。
仕事に集中している時に無言で入ってこられるのは嫌だろう、そう思ってのことだ。
けれどその後に拒否の言葉を掛けられたことは初めてで、
そんな事態を予想だにしていなかったセバスチャンは思わずそのまま入室してしまった。

「ま、待てってば」
「坊ちゃん」

悪魔の綺麗な紅茶色の瞳に映ったのは、焦ったように目元を隠そうとする主人の姿。
もう目が合ったというのになお入室を拒否しようとする声も、涙混じりのもので…

「セバスチャ、」
「待てません」

気付けばセバスチャンは、入り口にティーセットのワゴンを置き去りにしたまま
椅子に座っていたシエルのもとまで歩み寄り、そのちいさなからだを抱き上げていた。
嫌がって暴れるシエルの腕がその頬を掠め、ばたつく足が腹部に当たっても
セバスチャンはシエルを解放することはなく、それどころかますます腕にちからをこめる。

「やだ、降ろせっ、セバスチャン、紅茶はいいからひとりに…」
「…無理です。こんな貴方をひとりになんてできません」
「や…っ、ぁ」
「いいこだからじっとして、坊ちゃん」

暴れるシエルの爪が執事の頬に当たって、すうっとひとすじ、赤い線が走った。
それを目にした途端我にかえったように大人しくなってくれた主人を片手で抱えなおして、
安心させるように笑顔をつくり頬を伝う涙を拭ってやれば、またぽろりと零れる涙。
気付けばシエルは、自分を抱きかかえてくれている恋人の首に腕をまわし、
きゅっと抱きついてしまっていた。

「やっと甘えてくれた」

ぽんぽんとあやすように背中を叩いてくれる大きな手から与えられるリズムは、
まるで抱き合った時に耳にするセバスチャンの鼓動そのもの。
囁くように耳元で紡がれる言葉のあまい響きは、抱き合った時に自分の名を呼ぶ声と同じ。
嫉妬や焦りでぐちゃぐちゃになっていたシエルのこころにやさしく響いて、
先程までの耐え切れなくなってしまうような不安をじんわりと溶かしていった。






改定履歴*
20110806 新規作成
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