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僕の悪魔 -13-

ゆったりと浮上してくる意識にあわせて、まわりの音が少しずつクリアになっていく。
とくとくと規則正しい音は、きっと自分を腕に抱いて横になっている恋人のもの。
それから、遠くで聞こえる鐘の音がもうすぐ晩餐の時間だということを教えてくれた。

今日は結局、アフタヌーンティの時間から仕事も勉強も全てキャンセルしてしまった。
きっと明日は忙しくなるな、いや、晩餐が済んだら少し仕事を片付けよう。
シエルは自分の髪を梳くように撫でられる心地よい感覚に身を預けたままそんなことを考える。

いつのまにか握りこんでいたセバスチャンのシャツを少しだけひっぱってみると、
彼は少し笑いながら「おはようございます」と挨拶をしながらシエルの額へとキスをした。

「よく眠っていましたね。ご気分はいかがでしょう?」
「ここ…」
「貴方の部屋です。ソファで寝ると風邪を引いてしまいますから」
「おまえも、寝てたのか?」
「ええ、すこしだけ。貴方の寝顔が気持ち良さそうで、つられてしまいました」
「…腹が減った」
「今日はスイーツも紅茶も抜きでしたからね」
「晩餐はまだか?」
「貴方がシャツを離してくださったら、すぐにご用意いたしますよ」

この屋敷にまともな料理を作れるのはセバスチャンしかいなくて、
そのセバスチャンは今自分が毛布代わりにしていることは百も承知だったが、
シエルはあえてそんな我侭を口にした。
たくさん泣いて、たくさん抱き合って、そのことが何だかとても恥ずかしかったから。

「昼間の分のスイーツも食べるからな」
「晩餐の後にお持ちしましょう。さぁ、いいこだから手を離してくださいますか?」
「…」
「シエル、愛してます」
「っ、何言って…っも、さっさと行け!」

セバスチャンはそんなシエルの心を見透かしたようにふわりと笑うと、
ぎゅうっとシエルの細身のからだを抱きしめて名残惜しそうに名前を呼んだ。
それに慌てて顔を真っ赤にするシエルの頭をぽんぽんと撫でて、ベッドを降りようと背を向ける。

燕尾服を脱いだ大きな背中、手袋を外した大きな手。
滅多に見られないそれらは何だか特別のような感じがして、
シエルはベッドに寝転んだままこっそりと目でそれを追ってしまう。

「…嗚呼、そうだ」
「なっ なん、だ」
「ひとつ大事な事を忘れていました」

そのあまりに正直な視線に、初めは気付いていないフリをしていたセバスチャンだが、
肌蹴たシャツのボタンを留めなおし、ネクタイをきゅっと締めたところでふと
シエルの方を見やり、次の瞬間覆いかぶさってキスをした。

舌を絡ませ、甘噛みをして、最後に唇の端をぺろりと舐めてから
にこりと笑って見せる悪魔の表情はとても妖艶なもので、
シエルの心臓はばくばくと音を立て、セバスチャンに聞こえてしまわないかと気が気ではない。
セバスチャンはそんなシエルが可愛くて仕方ないというように、
また甘やかすような触れるだけのキスを頬に落とすと、ちいさな声で囁くように言葉を紡いだ。

「誰かと一緒に寝るのは、貴方が初めてです」
「え…」
「悪魔に睡眠は必要ありませんし…嗜好として睡眠を摂った事も何度かありますが、一人でです。
 貴方以外にこころを許せる人間など、私には居ませんでしたから」
「…僕と一緒は、へいきなのか?」
「平気も何も…貴方の寝顔を見ていると、可愛くて気持ち良さそうで、
 ついつい一緒に寝てしまいます。
 今日だって、本当は貴方の手を振りほどいて晩餐の準備をすべきだったのに、
 貴方と一緒に寝ることを選んでしまいました。
 職務を後回しにして主人のベッドで寝るなんて、執事失格ですね?」
「…失格じゃ、ない。だって僕は一緒に寝たいって思ってるから」
「坊ちゃん」
「一緒に寝たいし、…本当は、朝までぎゅってしててほしい…」

本来ならば、業務を後回しにした執事を窘めるのが主人としての正しい行動なのだろう。
けれどシエルには、どうしてもそんなことはできなかった。
かわりに口をついて出てくるのは、普段は恥ずかしくてとても言う事ができない心からの言葉。

「イエス、マイロード。貴方が望むなら、いつまででも」

なんだかうまく誘導して『言わされた』ような気がしたけれど、
朝まで、という言葉を聞いた執事がとてもうれしそうに
自分のことをシーツごと抱きしめてきたから、
シエルは大人しくそれを受け入れて目を瞑る。

シーツ越しに悪魔の体温が伝わって、ふわりといいにおいがして。
たったそれだけのことでこんなにも安心してしまう事実に改めて気付いたシエルは、
うすい胸の奥でちいさな決心をした。

――もう、色々とどうしようもないことを考えるのはやめよう。
過去に何があってもセバスチャンは僕だけの悪魔で、僕は悪魔のことがこんなにすきなんだ。








改定履歴*
20110913 新規作成

「セバスチャン、ちょ、も…っ、待てってば」
「はい坊ちゃん、なんでしょう?」
「いつまでキスしてれば気がすむんだ!」
「もうちょっと…」
「もう!だめだ!さっきもそう言ったろう。大体僕はおなかがすいた、晩餐の準備は」
「…はい…」
「わかりやすく気落ちするな」
「行ってきます坊ちゃん、後でお迎えにきますからいいこにしててくださいね」
「あ、待てセバスチャン!」
「?はい」
「さっきの、朝までって話なんだけど」
「はい」
「…おまえの意思は?『命令』で一緒にいてもらっても、何の意味もないんだ」
「…それは、もちろん――…」
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