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僕の悪魔 -10-

「トクベツ…って?」

悪魔の目に映る、自分のことをまっすぐに見上げてくる紫と蒼の瞳。
それに浮かんでいるのは、何を言われるのだろうという不安と、…それから、ある種の期待。
セバスチャンはシエルの目元にひとつちいさなキスを落として視線を逸らされないのを確認すると、
そのままちいさな手を自分の首筋にまわさせて安心させるようにこりと笑ってみせた。

「そう。私にとって、貴方は特別な存在なんです」
「別に、無理して慰めてくれなくても僕は平気だ」
「貴方は泣いていても強気なのですね、マイロード?」
「…悪かったな。悪魔の言う事などそう容易く信じられるものか」
「では、恋人としての私の言葉を聞いてください」

悪魔と契約者でも、執事と主人でもない、ふたりを繋ぐ絆のうちでいちばん甘い『恋人』としての関係。
それを思いがけずに自覚させられた途端、シエルはそれまで一生懸命強がっていたのが
嘘のように大人しくなり、じっと恋人の話に耳を傾けた。

「坊ちゃんは、まだ幼いからあまり解らないかもしれませんが」
「…ばかにしてるのか?」
「悪魔として長く生きていると、『初めて』という感覚を覚えることがなくなってくるんです。
 適当に見繕った人間の愚かな願いを叶えて、その代償に魂をたべる…その繰り返し。
 その事に全く意味が無いとは言えませんが、これと言って得るものも無かった」
「得るもの?」
「はい。けれど貴方といると、初めてのことが多くて―…
 そうですね、例えば今みたいに、契約相手の人間が泣いているとするでしょう?
 泣いている人間は思考が鈍っていますし、うるさいし、下手に声を掛ければ八つ当たりをされる。
 普通だったら放っておきます。悪魔ですから」
「ひどい言いようだな。悪魔め」
「…けれど、貴方の泣き顔を見るのは辛くて、できる事なら泣き止んで欲しいと思う。
 泣き止んだら、今度は笑って欲しいと思う。
 ホットミルクをお淹れしたら泣き止んでくれるだろうか、
 ケーキをお出しすれば笑ってくれるだろうか、試行錯誤して喜んで頂けたら嬉しくて。
 坊ちゃんは私に色んな『初めて』の感情をくれる、トクベツな存在なのです」
「そ そんなの、僕以外にもいたかもしれないだろ…っ」
「貴方だけです。こんなに愛しいと思ったのも、大切にしたいと思ったのも、貴方だけ」

ゆっくりゆっくり、ひとつづつ大事に言葉を紡いでゆく、シエルが大好きな悪魔の声。
それを間近で聴かされるのが何だかとても照れくさくて
シエルは悪態をつきながら必死に平静を装っていたのだが、
その努力も空しく、最後の言葉でシエルの頬はあっという間にあかく染まってしまった。
それでもなお、信じられないと言うように首をふるふると横に振る恋人の様子に悪魔は苦笑いをひとつ。

「涙を零したのも初めてだと申し上げたでしょう?それとも、悪魔の涙なんて信じては頂けませんか…?」

悪魔はそんな恋人の耳元に唇を寄せ、とっておきの声であまい言葉を囁く。
次の瞬間ぞくんと身体を震わせるシエルのちいさな耳たぶにキスをしてみれば、
自分の首筋にまわさせていた細腕にきゅっと力がこもるのがわかる。

「――る」
「え?」
「信じる。だって、おまえの涙は、嘘じゃなかったから。僕にだって、それくらいは解った…」
「ありがとうございます、マイロード」






改定履歴*
20110830 新規作成
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