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僕の悪魔 -9-

まるで、ぴたりと一瞬だけ、時が止まったような感覚だった。
シエルの想いを聴かされた悪魔は、咄嗟に言葉が出なかったが、次の瞬間
じっと返事を待っていたシエルの頬に手を添え上を向かせて、噛みつくように唇を奪う。

「!ぁっ、んうっ」

ゆっくりと啄ばむような軽いものを繰り返し、時間をかけて次第に深くなってゆくのが
悪魔のキスの癖だと思っていたシエルは、触れ合った瞬間口内に進入してくる
熱い舌に驚きうまく息継ぎすることもできず、ただ受け入れるので精一杯。
短く浅い息をつく赤い唇から零れた唾液が、つうっと頬を伝って落ちてゆく。

深い蒼と、契約印の入った紫の両の瞳を縁取る長い睫毛はまたしっとりと涙で濡れていたけれど、
自分の首にまわされた細い腕と、そのてのひらが自分の髪を撫でていることから
その涙は先程までの悲しみの感情によるものではないと判断したセバスチャンは、
角度を変えながら深く深く、呼吸さえ飲み込んでしまうように口付けた。

「――っ、セバ、待、」
「いいから、黙って」
「ん、ぁ…っ」

そう広いとは言えない執務室のソファの上、自分に覆いかぶさっている執事の下で
シエルはあまりの性急な行為に慌てて身を捩らせる。

けれど、唇だけとはいわず頬や額、そして首筋を経て鎖骨へと辿ってゆく
悪魔の舌と唇から与えられる快感がここちよく脳を溶かしてくれる作用があるかのようで、
次に目線があった時には、シエルは自分から悪魔の頬に手を添えキスをねだった。
もちろんそのおねだりが拒否されることはなく、さくらんぼのように赤く色づいた唇を悪魔のそれが覆う。

「…はぁ、」
「坊ちゃん」
「ん…?」
「私はあくまで執事ですから、嘘はつけません」
「――そう、か…」

そっと重ねた唇が離れるか離れないかの時に、意を決したように静かに紡がれた言葉。
その言葉にきっと傷ついたのだろう、すこし間をおいて返事をするシエルのちいさな声は掠れていて、
つい先程キスをねだっていた時のしあわせそうに蕩けた表情には、少し影が落ちてしまっていた。


――『嘘をつくな。絶対に』そう、確かにそう命令したのは僕だけど、でも、
もしかしたら今回だけは心地いい嘘で酔わせてくれるかと思ったのに…
そう思うと、いっそこの悪魔のストイックさが憎らしくさえある。
シエルは無意識のうちに、悪魔の頬を包んでしまっていた自らの両手を離し、ふいと横を向いてしまった。

対してセバスチャンは、全ての感情が表に出てしまうあまりに幼い恋人の様子に苦笑いをひとつ。
可愛らしく膨らんだ頬を撫でながら、逸らされてしまった目線をもう一度合わせて、
続きの言葉を口にしようとしたが、それはシエルのちいさな手で口を塞がれてしまって叶わなかった。

「も…いい、わかった」
「坊ちゃん?話を最後まで聞いて」
「嫌だ…っ聞きたくない、聞かない!」
「お願いですから、伝えさせてください。私にとって貴方がどれだけ特別か」
「聞きたくな……、ぇ、あ?」

『抱いたのは貴方だけじゃない』そんな意味合いの言葉を聞きたくなくて、
必死に目を瞑り耳を塞いでいたシエルに、微かに届いた悪魔の言葉。
それが届いた瞬間に思わず目を開けてみれば、そこにあったのは
優しげな視線で自分のことを見つめている悪魔の瞳だった。






改定履歴*
20110826 新規作成
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