top * 1st * karneval * 刀剣 * utapri * BlackButler * OP * memo * Records

坊ちゃんのお気に入り

ファントムハイヴ家の執事の一日は忙しい。

朝は誰よりも早起きをして身なりを整え、使用人に仕事を指示し、ご主人様の朝食の準備。
時間になれば寝起きの悪い主人をあの手この手で宥め賺して着替えさせ、一杯の紅茶と朝食を摂らせる。
とは言え、この偏食で小食なご主人に一日分の栄養素をしっかり摂らせるのはなかなか難儀なことで、
四季折々の食材や旬のものを取り入れ趣向を凝らした食事すらも気に入らなければ
頑として口に運ぼうとしないのだから困ったものだ。

シエルはというと一食や二食抜いてもどうってことないようで(むしろそっちの方が調子が良さそうだ)
普段どおりに勉強や仕事をこなす。だが、そういう時は決まって――

「セバスチャン!おやつはまだか!」
「いけません、坊ちゃん今おやつ食べたら昼食残すでしょう」

そう、甘いものが好きなシエルは、食事を抜いた日には決まって午前10時頃におやつを要求するのだ。
だがセバスチャンの心情は当然よろしくない。
前日から丁寧に下拵えをして作った料理に口もつけず、
そのくせこうやっておやつを要求するのだから当然だ。

わがままな主人をぴしゃりと窘めるセバスチャンの言葉に、シエルはそれ以上なにも言えなかった。
むぅっと頬を膨らませるその可愛らしい表情に、気付かれないよう苦笑いをひとつ。

「坊ちゃん。そう臍を曲げないでください」
「臍など曲げてはいない」
「それ以外のことなら、何でもして差し上げますから」
「……ほんとか?じゃあこっちにこい」
「イエス、マイロード」

『こっち』と言ってシエルが指したのは、執務室にある大きなソファだった。
そこに執事を座らせ、ぽすんとその膝の上に座って甘えるように後ろを見上げる。
普段どんなに大人ぶっていても、やはり子供――ふとした時に見え隠れする子供らしさを
自分だけが見れることを嬉しく思いながら、セバスチャンはシエルを膝に抱えたままその小さな手を握って甘やかした。

「さて坊ちゃん、何をしましょう。チェスかダーツ?それとも昼食を持ってどこかへお出かけしますか?」

自らの背をセバスチャンに預けて、すっぽりとその腕の中に埋もれていたシエルはまだどこか不満気で、
次々に与えられる選択肢に頷こうとはしない。
ただ、自分を抱きとめている大きな手を覆う少しの汚れもない手袋を
いたずらに引っ張っては首を横に振るだけ。

「そういえば、最近はお仕事が忙しかったですね。
 幸い急ぎの仕事もありませんし、すこし、一緒に休憩しましょうか」
「…!そうだ、それでいいんだ」
「配慮が足りず失礼いたしました、ご主人様」

奥の手とばかりに提案した言葉に、ぱぁっと嬉しそうな顔をして振り返り抱きついてくるご主人様の頬を
ゆっくりと撫でてやれば、シエルは目を瞑って猫のようにそのやわらかな頬を大きな手に擦り付けてくる。

「坊ちゃんは猫さんみたいですね」
「猫なんかといっしょにするな」
「そうですね、猫さんよりずっと愛らしくて…ずっと撫でていたいです」
「…も、頬ばっかりさわるなばか!」
「ごめんなさい、つい。ふにふにした手触りが気持ちよくて」

普段大人ぶっているシエルのすきなものは、あまいあまいおやつと、それ以上にあまい執事の腕のなか。
本来仕事をする部屋の座り心地のよいソファの上、お気に入りの執事の腕に抱かれたまま、
他愛もないことを話すシエルの表情は本当に嬉しそうなもので――…
結局セバスチャンは仕事を放り出したままの主人を窘めることができず、
おやつの代わりに用意させた紅茶がすっかり冷め切ってしまうまで、
二人はくっついたまま同じ時間を過ごした。

「坊ちゃん、もうあと半時ほどでご昼食ですよ」
「そんなことわかってる、なんだいまさら」
「放っておけば眠ってしまわれそうでしたので」
「ねないぞ、僕はもうおとななんだから……」
「……そうですか」

寝ないぞ、そう言い残してその長い睫毛を湛えた瞼が閉じるまで、そう時間は掛からなかった。
先程抱き上げた時よりも明らかに体温の高くなった熟睡中のご主人様の体を
そっとソファに寝かせて毛布を掛け、そのさわり心地のよい髪を撫でて額にキスをひとつ。

「おやすみなさいませ、ご主人様」

セバスチャンは静かな寝息を立てるシエルに恭しく一礼すると、重厚な扉を閉めてキッチンへ向かう。
もちろん、シエルの昼食を準備するために。



****

「おや、坊ちゃん。よく眠れましたか?
私の膝の上でおねんねするとは、坊ちゃんにもまだまだ可愛いところがおありですね」
「……!!僕をからかってるのか、セバスチャン!」
「坊ちゃんをからかうなんてまさかそんな」
「〜〜〜!!セバスチャン!!主人は僕だぞ!!」
「はい…わかっています」

当然ながらシエルはこのほんの少し後に食事の世話をする執事にからかわれることとなり、
その悪魔のような笑顔を前に、絶対にうたた寝をしないと固く心に誓うのであった。





end

改定履歴*
20110115 新規作成
20110724 ペンロ→セバシエ変換
黒執事に嵌った直後、萌えに任せて前サイトでのカプで黒執事パロとして書いたものを逆輸入。
坊ちゃんが今よりだいぶしょたです。読み返しててわりと恥ずかしい。

書きたかったセリフ↓
『いけません、坊ちゃん今おやつ食べたら昼食残すでしょう』
みたいなやつ。もうこんなことまで管理しちゃうような主従が大好きでどうしようもない
- 2/2 -
[] | [次]



←main
←INDEX

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -