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思い通りにはいきません

「全く、貴方はいつまで経っても慣れませんねぇ」
「ん…っ、うるさい」
「ああホラもう、そんな手つきでは上手にいれられませんよ?
 ちゃんと両手を添えて、ゆっくりでいいですから…」
「もう、黙ってろって…――あっ!」









セバスチャンとシエルが、グレルの気紛れで入れ物と魂を入れ替えられてから5日目のこと。
アフタヌーンティの時間を迎えたファントムハイヴ家当主の執務室から聴こえてくるのは、
困ったような、少し焦ったような執事の声と冷静な当主の声だった。

「――はい、おしまい。続きは明日にしましょう。
 今日『も』私がお淹れいたします。紅茶が冷めてしまいますからね」

にこりと綺麗な笑顔を作って『セバスチャン』からティーポットを受け取るのは『シエル』だ。
セバスチャンの姿をしたシエルはそのまま拗ねたようにソファに身を投げ出し、
じいっと紅茶を入れる自分の姿をした執事の動作を眺め深いため息をつく。

その視線に気付いたセバスチャンが苦笑いをしながら差し出す紅茶を受け取り、
こくりとひとくち飲み込むと、また眉間にシワをよせた。

「おいしくない、味がしない」
「それはまぁ、今坊ちゃんは悪魔ですから」
「おまえは?」
「ん…よく、わかりませんね」
「ははっ、人間のからだを得てもやっぱり味が解らないなんて、
 おまえのほうがよっぽど悪魔じゃないか」
「私は、悪魔で執事ですから。こうやって坊ちゃんと同じものを頂くのも、貴方のお体の為ですよ」

二人のからだが入れ替わってからというもの、セバスチャンはシエルのファントム社社長としての仕事や
伯爵としての業務を通常通りこなす傍ら、使用人たちをうまく言いくるめて
シエルと二人キッチンに入り、いつもと同じように食事を作り続けた。
姿形は変わっても動作に無駄は全くなく、その手さばきはつい見惚れてしまうほど鮮やかで、
作る料理の味も全てシエル好みのもののはず。

…けれど、肝心のシエルには悪魔の身体になってしまったので味が全くわからないのだ。
もちろん、毎日の楽しみであったおやつもデザートも、口にするもの全て。
そのことが、慣れない身体で過ごさなければならないシエルを余計に苛立たせた。

対してセバスチャンは涼しい顔をしてシエルの身体の為と食事をバランスよく口に運ぶ。
丁寧に磨き上げられたシルバーを身体の一部のように操る気品に満ちた姿は、これぞ伯爵といったもの。
使用人や会社の人間相手にもそつなく立ち振る舞い、まさか中身が別人であるとは
疑われてもいないようだったし、ひとことで言えば、セバスチャンは完璧に『シエル』を演じきっていた。

そのことがなんだか無性に悔しくて、食事を作れない代わりにせめて紅茶だけでも、
と思ったシエルだったが、それすらも上手くいかない。どうやってもカップに数滴、零してしまうのだ。

「それにしても、坊ちゃんがここまで不器用だとはおもっていませんでしたよ」
「おまえの教え方が下手なんだ。口頭だけで説明されてもわからん!」
「手取り足取りの実技をお望みですか?…とはいえ体格が違いますからねぇ。
 大体、いつもお手本は見せて差し上げていたでしょう?」
「執事風情の動作をいちいち覚えているわけないだろう」
「そうですね、坊ちゃんは身の回りのお世話を執事に全て任せてしまえる高貴なお方ですから」
「…馬鹿にしているのか」
「いいえ、とんでもない」

紅茶カップを片手に、にこりと笑ってみせる自分の顔に苛々は募るばかり。
シエルは少しでも気を紛らわせようと焼き立ての林檎のパイを乱暴に口に放り込んだが、
やっぱり味のしないそのおやつにまたもやテンションが下がり、
セバスチャンは気付かれないように心の中でくすくす笑うのだった。






改定履歴*
新規作成 20110722
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