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2.止まらない運命に

 あの日、初めてからだを繋げた日。まだまだ成長途中のちいさなからだで、一生懸命に自分を受け入れようとする主人が愛しくて仕方なかった。

 あまい声で自分の名を呼ぶ唇に幾度も幾度もキスをして、するりと指をすり抜けてゆくさわり心地のいい髪を撫でて、吐息が触れるだけでびくりとからだを震わす感度のいい耳に愛を囁いて。こころの中で誓った『貴方が望むのなら、ずっとこのまま』の気持ちに偽りはない。

 嗚呼、本当にずっとこのまま、貴方と一緒にゆっくりと時間を歩んでゆけるなら。人智を超えるちからも、ヒトより永い寿命も、貴方以外の何もかもを喜んで捨ててしまうのに。

 ……けれど、神は悪魔が祈っても聞いてはくれないだろう。

「坊ちゃん」
「ん、どうした?何かほしいもの、あるか?」
「はい、ひとつだけお願いを聞いてくださいますか?」
「言ってみろ、何でもやる」
「では…。お願いです、添い寝してください」

 それまでベッドの傍のソファに座って祈るようにぎゅっと私の手を握っていた主人は、私の『お願い』にはじかれたように俯きがちだった顔を上げた。

「え……?」
「本当はお願いなどではなく、貴方を抱き上げこの腕の中に閉じ込めてしまいたいのですが、…申し訳ありません」
「〜〜ッ、ばか、こんなときまで謝るな」
「はい…ばかですね」

 ベッドに入るため、靴紐を解こうとゆっくりと離されるちいさな手。その温かな体温が久し振りにこの手をはなれてゆく程度の事で、寂しくなる。自分で言った『お願い』を叶えてくれようとしているのに寂しくなるなんて随分我侭になってしまったものだな、そう思っても心は誤魔化せない。

 結局私は、恋人が靴紐を解きジャケットを脱いでベッドに潜り込んでくるまでの間、愛しさを形にしたような彼の姿から目を離せなかった。

 思うように動かないからだを叱咤して、彼の頭の下に腕を滑り込ませ細腰に空いた手を添える。そうしてきゅっと力を籠めれば、ふわりと香るやわらかな薔薇のにおい。

 きっと、ここに来る時に持っていた白薔薇をご自分で摘みに庭の薔薇園に寄ったのだろう。自分がこうやって伏せてしまってから一日も欠かさず枕元に飾られるそれは、素直でない主人からの精一杯の贈り物のようで、毎朝の密かな楽しみであった。

「ふふ、なんだか久し振りのような気がしますね」
「ん……そうだな」
「坊ちゃんのからだはやっぱりあったかいです」
「寒いか?掛け布をもう一枚、」
「いいです。…坊ちゃんが、いいんです」

 折角添い寝してくれていたというのに、慌てて毛布を取りに行こうとする主人の手をきゅっと握って引き止めれば、少しだけ照れくさそうにまたぽすんと横たわってくれる。抱きしめたまま額にそぉっとキスを落とせば、少しの間のあと自分を見上げてくる恋人。

 誘われるままにそのさくら色の頬や唇へとキスをした。それに応えるようにぎゅっと抱きついてくる恋人の体温が愛しい。その頬をつたい落ちる涙を掬って『シエル』と名を呼ぼうとすると、ズキンと頭の奥が割れるように痛んだ。

「……? セバスチャ……、セバスチャン?」
「っく、……ぅ」
「セバスチャン! いやだ、嫌、セバスチャン、セバ……」

 目の前が霞んで、次第に私の名を呼ぶ声が遠くなってゆく。嗚呼、もう本当に、あと少ししか傍に居られない。

「……ん、坊ちゃん」
「セバスチャンッ、お願いだから僕の魂を」
「愛してます、お傍に居られなくても、ずっと」
「セバスチャ……いやだ、傍にいろ、おまえがいなくなるのは嫌だ、ずっと一緒に」
「……もし、貴方と同じ人間としてうまれかわれたら、お傍に置いてくれますか?」

 いくら祈ってみても止まらない運命に覚悟を決めて、どうしても伝えたかった言葉を口にして。質問の返事を聞けなかったのが心残りではあるけれど、最期の一瞬まで愛しい温もりをこの腕に抱いて居れたことは本当にしあわせだったと思う。






改定履歴*
20110710 新規作成
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