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かくれんぼ

「ただいまー…」

それは、梅雨のある日のこと。じめじめした湿度を鬱陶しく思いながら
大学から帰宅したローは、いつもなら存在しない靴を玄関で見つけ、
不思議に思いながらも家の奥に向かってただいまの挨拶をした。

「おかえり、兄貴」

その声を聞きつけて――いや、玄関の開く音に反応したのだろう。
リビングのドアが開いて現れたのは、いつもはバイトで夜遅くにしか帰ってこない弟。
今日はバイト休みになったんだ、という言葉が耳に届いた途端、
先程までの憂鬱な気分は晴れてローの顔は自然に笑顔になる。

「きーくんと長く一緒に居れるの久しぶりだ」
「うん、嬉しい?」
「すっごい嬉しい」
「そっか」

からだごと抱きつくローを両手でしっかりと受け止めるキッドも、
梅雨には似つかわしくない太陽のような笑顔を見せる。
何しろふたりは、つい先日想いを打ち明けて恋人としての関係になったばかりだったから。



****
楽しく夕食の準備をして、食事を済ませ、風呂にも入って、それでもなお余る時間。
ふたりはリビングのソファに並んで座り他愛ない話をしていたが、
普段こんなに一緒にいることはないせいか、なんだか落ちつかない。

特にローは、キッドの近すぎる体温を意識してしまって先程からそわそわしていた。
それは図らずもキッドに伝染し、しまいには会話が途切れがちになってしまう。
どちらからともなく会話が止まって、ゆっくり重なる視線。

キッドの大きな手がローのうすい肩に置かれて、意を決したようにぐいっと引き寄せて。
キスまであと数センチ、というところだった。
ローが慌てたようにこれからの行動プランを口にしたのは。

「か、かくれんぼ!かくれんぼしようきーくん!」

ふたりの間の時間が一瞬とまって、キッドのため息と共にまた動き出す。
よりによってかくれんぼ。そんなこどもっぽいことを言い出すなんて…とは思ったが、
ため息を聞いたローが悲しそうな顔を見せたからそんなのは吹っ飛んだ。

何よりも誰よりも大切な宝物を悲しませるわけにはいかない。
普段バイトばかりで構ってやれない恋人を、思いっきり楽しませてやるのが自分の務め。
たとえそれが、照れ隠しといえどもあまりにこどもっぽいプランだとしても、だ。
キッドはそう自分に言い聞かせ、気持ちを切り替えた。

ところが、いざ始まってみれば兄兼恋人のローの口から出てきたのは不満げな一言で…

「きーくん隠れちゃうの」
「かくれんぼするって言ったの兄貴だろ?」
「う……でもおれが鬼っては言ってない!」

きめこまやかで血色のいい頬を心なしか膨らませて、
兄らしくない我侭を言うローに苦笑いをひとつ。
まったく、先程までは自分を呆れさせたかもと涙目になっていたのに、
いざ始まってみればしっかり我侭を言うなんて…と思ってみても、
そんなところも愛しくみえるのだから困ったものだ。

「なに、兄貴が隠れんの?いーよ、ほら目ェ閉じてっから」

とは言ってみても、この可愛らしい我侭を言う恋人を目の前にして
完全に目を閉じるのは勿体無くてこっそり薄目を開けていたキッドに、
それを鋭く察知したローからのお説教が飛ぶ。

「こら!キッド、薄目はダメ!兄ちゃんがちゃんとやってやるからな」

ローは兄らしく(と本人は思っている)ぴしゃりとそう言うと、ソファの傍らに
置きっぱなしだったキッドの制服のネクタイを手にして目隠しにくるりと結わえてしまった。

うまくできただろ?見えないだろ?と自慢げな兄の声に、キッドは返す言葉が見つからない。
だってこれではついこの間オトナのDVDで見た目隠しプレイそっくりだ、なんて思い出してしまったから。
もちろんその場合、目隠しされる側がキッドではなくローなのだが、この際それはどうでもいい。

とにかく、一旦そういうことを思い出してしまうと頭から離れないのがヤりたい盛りの高校生だ。
もう今彼の頭を占めているのは、『ローに目隠ししてセックスしたい』という欲求のみ。

「…何プレイだよ」
「――え?」
「なんかえろい」
「!!っ、ご、ごめんきーくん!」

初めはキッドが何を言っているのかわからない、という様子だったローに
気付いてくれとの思いを込めて直球でそう言ってみれば、一拍遅れて聞こえてくる
あきらかに焦ったような声。続いてしゅるりとネクタイの解ける音が聞こえて、目の前が開けた。

顔を真っ赤にしている兄の手からネクタイを受け取ったキッドの口角はくっと上がっていて…
その笑顔は明らかに先程までの弟としてのものではない、捕食者のものだった。

「いいけど。兄貴もやってみろよ」
「や、やだよきーくん!」

動けずにいるローの目元にネクタイをあて、そのまま手早く結んでしまえば、
慌てたローの口から焦ったような拒否の言葉が聞こえる。
けれどキッドはそれに耳を傾けることはなく、それどころか気配を消すようにそうっとローから距離を置いた。

「きーくん?きーくん!」
「………」
「きーくん、外して、ねぇ」
「………」
「どこ行ったの、置いてっちゃやだよ」

視界を塞がれたローのお願いも無視してじっと息を潜めてみれば、
いよいよ怖くなってしまったのだろう。ローの声がだんだん泣きそうなものになってゆく。
それでも自分で目隠しとろうとはしない兄が愛しくて、キッドは
その痩身を抱き寄せきゅうっと抱きしめると頬へとひとつキスをした。

「こわかった?」
「〜〜っ、こら!からかうな!」

安心したのだろう、ネクタイを解いた途端に浮かんでくる涙をそのままに
抱きしめられたままぺちぺちと自分を叩いて抗議してくる可愛い恋人。
笑ってはさらに怒らせてしまうだけだと思ってみても、頬が緩むのを止められない。

「自分でとればいーのに、ばかだなあ」
「だってせっかくきーくんが結んでくれたのに…」
「……ばか。ほんと兄貴はおれのこと大好きだな?」
「好きだぞ!自慢の弟だからな!」
「おれも好きだよ」

触れるだけのキスを繰り返して、ローのからだから力が抜ければ深いキスをして。
そうしてふたりはしあわせそうにじゃれあいあながら、ソファに沈んでゆくのだった。




end

更新履歴*
20110620 新規作成

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