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第61話の続きを妄想した結果

たとえば、
もっと僕が強かったら
もっと周りに気をつけていたら
――もっと僕が、大人だったら

こいつに怪我をさせてしまう事なんてなかったのに





****
カンパニア号のホールの惨状は、思わず目を背けてしまいたくなる程のものだった。
辺りには葬儀屋によってオモチャにされた『人間だったモノ』がたくさん倒れていたし、
飛び散ったガラスの破片や破壊された家具で足の踏み場もない。
ここをこんなに散らかした当の本人達は、ひとりを除いて戦いの場所を甲板へと移動させたようだ。

いや、ひとりではない。
正確にはここをこんなに散らかした当事者のうちのひとりである悪魔と、その主人。
この場にはそのふたりだけが残っていた。

「セバスチャン」
「はい」
「いたい、か?」

戦いの爪跡が色濃く残されたそのホールの中央にある階段下で、
死神の鎌をまともに受けた悪魔は回復を待つように壁に凭れかかって体を休める。
勿論その周りにも例外なくガラスの破片や木片は散っていたけれど、
シエルはそんなこと気にもかけず悪魔の傍に寄り添うように座り込んだ。

シエルだって足を捻っていてマトモに歩きもできないくせに、
それでもなお、使用人である自分の身を案じてくれるのが嬉しくて。
それまで苦痛に歪んでいたセバスチャンの表情がふわりと緩んだ。

「痛くないですよ」
「でも、傷が…血が、たくさん」
「直ぐに治ります」
「…うん」

痛くない訳ない。すぐに治るなんてありえない。
悪魔の魂の消滅すらありえる死神の鎌で斬られたのだ。
現に今だって息は浅く、額には汗が滲んでいて、その辛そうな表情は
いつも涼しげなセバスチャンには似つかわしくないものだった。

きっとだいぶ無理をしている――
そんなことは解っていたけれど、シエルはただ頷くことしかできなかった。
自分を庇ってひどい傷を負ったセバスチャンの苦しそうな様子と、
何もしてあげる事ができないという事実が悔しくて、
シエルの綺麗な蒼の瞳にはみるみるうちに涙の膜がはってゆく。

「…泣かないでください、マイロード」

セバスチャンは今にも零れ落ちてしまいそうなシエルの涙を拭ってやろうと手を伸ばし、
その手袋が血まみれであることに気付いて苦笑いをする。
そうして、いつものように口で咥えて手袋を脱ぎ捨て、改めてシエルの頬へと伸ばしたところで
そのおおきな左手はシエルの両手に包まれた。

「セバ…ごめん、痛い思いさせて」
「痛くなんてないです」
「歩けないだろう」
「今だけです」
「治るのか」
「はい、治りますよ。先程も申し上げたでしょう?
 船が沈む前には貴方を必ず安全なところにお連れします」

痛みを堪えた声で、ゆっくり紡がれる悪魔の言葉は穏やかだったけれど、
両手で握ったてのひらはひんやりと冷たい。それがシエルの恐怖心を煽った。

――もし、もしこの傷が治らなくて、このままセバスチャンがしんでしまったらどうしよう。

そんな恐ろしい事がちらりと脳裏をよぎって、心臓が凍りつきそうな感覚を覚える。
ほんの2年程前までは顔も名前も知らなかった相手なのに、こんなにも大切になってしまった。

「僕のせいだ」
「坊ちゃん?」
「僕があのとき同じ部屋にいなければよかったんだ、そうしたらおまえは僕のことを気にせず戦えたのに」
「坊ちゃん」
「足手纏いになっておまえに怪我させて、ごめ…」

零れる涙を拭うことも忘れ一気に捲し立てるシエルの唇を塞ぐように、
セバスチャンのひとさし指がシエルの唇に添えられた。

「貴方の望みを叶え、貴方をお守りするのが私の役目。私の行動の全てはあなたの為のものです。
 貴方の事を足手纏いなんて思ったことはありません。
 どうぞ私の目の届くところに居てください。ね?」

全く悪魔らしくない優しすぎる言葉は、喪失の恐怖で凍りかけていた
シエルのこころををふわりとつつんで、とかしてゆくようにあまいものだった。
悪魔がシエルの唇に添えていた指で耳を撫で、髪を梳くように撫でてみれば、
それに誘われるようにシエルは悪魔の肩先にこつんと額をくっつける。

「セバスチャン、…寒くないか」
「はい…実はすこしだけ。ひとつだけ、わがまま言っていいですか」
「言ってみろ」
「もうすこし、歩けるようになるまでの間、暖めてくださいますか?」
「…ちょっとだけだぞ」
「はい」

それは、自分から『抱きつく』のには理由が要るシエルの為のやさしい嘘。
『我侭な執事の要望で暖めてあげる』という大義名分を得たシエルが、
傷に障らないように遠慮しながらも甘えるように抱きついてくる様子がとても愛しい。

「あったかいか?」
「ええ、とても」
「よかった」
「おかげで早く治りそうです、坊ちゃん」
「…ん」

擦り寄ってくる仔猫のようにあたたかな体温と、心配そうに体調を気遣うシエルの声。
そのどれもが、セバスチャンにとっては怪我の特効薬になる気がした。




end

改定履歴*
20110917 新規作成

怪我をしたセバスが痛みを堪える様子が見たいです先生。あと、痛いけど、それより「この怪我でどうやって坊ちゃんを抱っこしたらいいですかねぇ」とか考えてるとほんと萌えすぎて…もうどうしようセバシエ好きだ
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