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あくまで怪我人ですから -5-

満月が夜空に輝く頃、ファントムハイヴ家当主の寝室のベッドの上にはふたつの影があった。
ひとつはこの部屋の主であるシエルのもの。そしてもうひとつは、執事であるセバスチャンものだ。
ふたりが恋人としての関係を持つようになって以降、ベッドを共にするのは特段めずらしいことではない。

ただいつもと違う点を挙げるとすれば、セバスチャンは白いシャツとスラックスを、
シエルは夜着をきっちり着ていて、大人しくベッドを共にしている『だけ』ということで…
纏めると、いつもならばベッドに入っていくらもしないうちに主人に覆いかぶさりキスをはじめ
そういう行為を開始する執事が、今日ばかりはその様子も見せないのだ。

何もせず眠るだけなのは、悪魔とはいえ怪我人だからだ。それはわかる。わかるけれど、
これ以上ないくらいの至近距離で感じるあたたかな体温や呼吸音をなんとなく意識してしまい、
灯りを消して暫く経っても眠りにつくことができずにいた。

「…はぁ」
「坊ちゃん、眠れないのですか?」
「ん…」

なにより、さっきバスルームで幾度も交わしたキスが頭の中をちらついて、
いくら忘れようと目を瞑っても消えてくれないのだ。
キスだけ、と言ったのは自分。執事はそれを忠実に守り、それ以上のことはしなかった。

怪我人に無駄に体力を使わせるわけにはいかないんだから、これでよかったんだ。
現に今日一日の静養で足首の怪我は治りかけていたし、この調子でいけば肩だって近いうちに治るかも。
…そう自分に言い聞かせても、からだの奥に灯ってしまった火は消えてくれない。

「セバスチャン」
「はい、如何されました?先程からため息などついて」
「…べつに、なにも」

ある種の期待を込めて恋人の名を呼んでみても、返ってくるのは素っ気無いくらいに簡単な返事のみ。
暫くそのまま、執事の右腕を枕にして仰向けに寝転がっていたシエルだったが、
ころんと寝返りをうち、戯れにその逞しい右腕をつうっと指先でなぞってみれば、
頭の上から擽ったそうに笑う声が降ってきた。

「擽ったいですよ、坊ちゃん」
「悪魔でも擽ったいのか」
「あたりまえでしょう?さぁ、いたずらはそのくらいにして。昨日の疲れも残っているでしょう?
 目を瞑って。今は目がさえていても、じき眠くなりますよ」
「……ん」

――悪魔に夜更かしを窘められるなんて、やっぱり今日の僕はどうかしている。

執事に甘えることばかり考えてしまっている自分がなんだか急に恥ずかしくなったシエルは、
低くて心地いい声に誘われるまま目を瞑って、普段どうやって眠っていたかを思い返してみた。
ところが、瞼に浮かんできたのはセックスの時の悪魔の表情。






改定履歴*
20110614 新規作成
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