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あくまで怪我人ですから -4-

窓から入ってくる風が、ひんやりとした夜のものになってきた頃。
晩餐も仕事も終えたシエルが寝室に戻ってくると、ちょうどセバスチャンが
自らの右足首に巻いていた包帯を解いて傷の確認をしているところだった。
昨日の痛々しい傷が思い出されて一瞬どきりとしたが、
そっと覗き込んでみても、目に入るのはうっすら残る傷跡のみ。

「もう脚は大丈夫ですよ」
「よかった…。肩の傷はどうだ?」
「肩はもう少し、ですね。でも、じきに治ります」
「随分早いんだな」
「ふふ、悪魔ですから。さぁ坊ちゃん、お風呂の準備ができていますよ」
「ん、わかった」

ほぼ治りかけの足首の傷を見て幾分安心したのだろう、シエルはほっとした表情を見せると、
執事が準備していた着替えを手に、バスルームへと足を向ける。

「あ!坊ちゃん」
「なんだ」
「いえ、あの…お一人で大丈夫ですか?お体や、髪を洗ったりとかお手伝いしましょうか」
「……目がやらしい」
「!とんでもない、ただ泡が坊ちゃんの目に入ったら大変だと思いまして」
「こども扱いするな、平気だ。怪我人は寝てろ」

自分で着替えを持っていくのも、入浴はひとりで大丈夫だというのも、
きっと、怪我をしている自分を気遣ってのものなのだろう。
そうは思ってみても、いつもならほぼ一日中一緒に過ごして、世話をして、
シエルの可愛らしい仕草も表情も独り占めしていることを思い出すとなんだか無性に寂しくなってくる。

そういえば、今日は晩餐のときのちいさな手がナイフとフォークを綺麗に操る様子も、
デザートに表情を緩ませる様子も見る事はできなかった。
せめてお風呂のときのリラックスした表情くらい見ても罰はあたらないのではないか。
むしろそうしたほうが色々と栄養になって傷も早く治るかも…

「セバスチャン」

そんなことを考えていたら随分時間が経っていたのだろう。
衣装室のドアが開いて、今の今まで頭にいた相手がひょいと顔を覗かせる。
慌てるあまり返事の声が裏返りそうになるのは、なんとか悪魔の力で押さえ込んだ。

「はっ、はい?坊ちゃん、如何されましたか」
「難しい顔して何か考えてたのか?来い、髪、洗ってやるから」
「え、あ?」
「いいから。…早く」

そう言って手を引くシエルに誘われるまま、セバスチャンはベッドを降りて衣装室を抜け、
奥にあるバスルームへと向かう。『自分から手を繋ぐ』という行為が照れくさいのか、
後ろから見えるシエルの耳や頬はほんのりと赤く染まっていた。

「坊ちゃんが私の髪を洗ってくださるなんて初めてですね」
「…片手ではやりにくかったから、困るだろうと思って」
「もしかして、試してくださったのですか」
「た、たまたまだ!気紛れだ!」

よく見ればバスローブを羽織ってはいるものの、髪もからだもまだびしょ濡れだ。
きっと自分の入浴もそこそこに、思いついたまま自分を呼びにきたのだろう。
本来ならば、主人が風邪を引かないようすぐにでもバスタオルで包んでしまいたいところだが、
自分のことを思ってやってくれている行動を尊重してあげたくて、そこには気付かないフリをした。



「目、瞑ってろよ?」
「はい」

シエルの可愛らしい声と心地よい水音が、湯が張り替えられたバスタブに浸かった悪魔を包む。
右足首はまだ完治しているわけではないから、バスタブの淵に置いた。
よく見れば少し湯が少なめなのも、きっと左肩に巻いた包帯ができるだけ濡れないようにだろう。
そんなちいさな気遣いに気付くと、なんだかとても嬉しくなる。

「洗い足りないところ、ないか?」
「だいじょうぶです」
「力足りてるか?」
「とってもきもちいいです」
「そうか、よかった…」

髪を洗われることには慣れていても、洗うのは初めてのシエルの手つきは、
ひどく慎重で覚束ないものだったが、それが逆に愛しさを増す。
最後に泡を洗い流して満足気なシエルの顔を見た瞬間、それまで我慢して気持ちが限界を迎えた。

「坊ちゃん、」
「え、ぁ、わぁっ!」

それでも、自分の怪我を気遣ってくれているちいさな主人を裏切るような手荒な真似はしたくない。
セバスチャンはシエルを手招きすると、くい、とその手をひっぱってバスタブの中へと引き寄せた。

「こら!何してる」
「ごめんなさい。どうしても貴方に触れたくて」
「違…いいけど、おまえの怪我が」
「平気です。平気ですから」
「平気って…せっかく治りかけてるのに傷が開いたらどうするんだ」
「お願いします坊ちゃん、キスだけですから、ね?」

じいっと目を見つめてそう請えば、返ってくるのは少し照れたような声。
湯を吸って重くなってしまったバスローブを脱がせながら頬に手を添え、
口角を上げた笑顔で目を瞑るよう促して。

「…キスだけだぞ」
「はい」








目を瞑って細い腕を首にまわしてくるその暖かな体温を愛しく思いながら、
悪魔は腕の中の痩身をぎゅうっと抱きしめ、幾度も幾度も、
湯がすっかり冷めてしまうまで、数え切れない程キスをした。






改定履歴*
20110612 新規作成
20110626 絵を飾らせていただきました!
これは5万打お礼のフリリク作品なのですが、そのリクエストをくださったMANA様が
なんと挿絵を描いてくださいました^^*

バスタブでいちゃいちゃしてるふたりがほんとびっくりするほどイメージぴったりで、
頂いて初めて見た時はもううれしくて、仕方なかったです!!
セバスの首に腕を回して甘えるような坊ちゃんと、坊ちゃんをぐっと抱き寄せて腕のなかに閉じ込めてしまうセバス最高に萌えます。お話書いててよかったなぁと思いました。続きも頑張ります!
MANA様、本当にありがとうございました!!

Muscatel Flavour MANA様


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