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あくまで怪我人ですから -2-

初夏の爽やかな風が吹き抜けるファントム家当主の寝室に、書類を捲る音が静かに響く。
執事であるセバスチャンが寝ているベッドと窓の間に置いた一人掛け用のソファに座って、
シエルは朝からファントム社の業務を黙々と行っていた。

「ここでは、お仕事、やり難くないですか」
「余計な心配するな、大体、僕が執務室に行ったらおまえはここから居なくなるだろう」
「ほんの少しお屋敷の用事を片付けるだけですよ」
「そんなのは他の者に任せておけばいい、怪我人は大人しくしてろ」

ところがそうは言っても、いつもは何でも揃っている広い机で行っている業務を
狭いスペースでやるのはやはり効率が悪いらしく、シエルは先程から
幾度となく忘れ物や書類を取りに執務室と寝室を行ったりきたり大変そうだ。
ただでさえ膨大な量の仕事なのにこれでは余計に疲れてしまうだろう、と主人のからだを
セバスチャンが気遣っても、シエルはぷいと顔を背けて聞き入れてくれない。

「坊ちゃん、わかりました。大人しくここにいますから、執務室で」
「…僕が邪魔なのか」
「そんなこと!ただ、坊ちゃんが余計に疲れてしまいます。私のせいで坊ちゃんが疲れてしまうのは…」
「〜〜っ、いいから一緒にいたい、んだ。僕は。…それでも、あっちにいけっていうのか」
「坊ちゃん」

顔をまっかにして、それでも一生懸命目線を合わせて訴えられたシエルの言葉に、
セバスチャンは返す言葉が見つからなかった。いつもはつんつんしていて素っ気無い恋人だから、
こんな風に素直に好意を口にしてくれることには全くといっていいほど慣れていないのだ。

甘えたそうな目線でじっと見つめてくる恋人が可愛くて、
『一緒にいたい』という気持ちを知らずに散々遠慮してしまったことを詫びたくて。
セバスチャンは、シエルが持っていた書類をそっと取り上げると、
そのまま細い手首を掴んでベッドの方へとゆっくり引っ張ってみる。

そうして、そろそろとベッドに乗り上げてきたシエルの頬に手を添えて、キスをひとつ。
さくらんぼのように赤く色づいた唇をつぅっと舌でなぞると、可愛らしい吐息が零れた。

「坊ちゃん、気付かなくてごめんなさい」
「全くだ、鈍感なやつめ」

こつんと額を合わせて囁くように許しを請えば、返ってくるのはいつもと同じ素っ気無い言葉。
それとは対照的に、嬉しさを隠し切れないように緩む表情がなんともいえず可愛らしくて、
セバスチャンは胸の奥が苦しくなる感覚を覚えた。

――嗚呼本当に、このご主人様に怪我がなくてよかった。
この笑顔を守る為なら、思うように動かない体なんてどうでもよく思えてくる。

触れるだけのキスでは物足りなくなって、視線を合わせてもう一度…と思ったときだった。
シエルの私室のドアがノックされたのは。






改定履歴*
20110607 新規作成
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