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チャレンジザトリプル!

「いらっしゃいませー!」

期末テストが終わったのは、まるで真夏のように暑い日だった。
じりじりと肌をさすような日差しにたまらず駆け込んだアイスクリームショップの店内は
予想通り天国のように涼しくて、シエルはほっとひとつため息をついた。

甘いものが大好きなシエルにとって、この店は普段からつい立ち寄ってしまう店だ。
特にこの時期は『ダブルを頼むとトリプルに!』なんて素敵なキャンペーンをやっていて、
冷たいものばっかり食べてはダメと言われていてもついついそれを注文してしまう。

「チョコレートチップと、ベリーベリーストロベリーと…」
「あとひとつはどれに致しましょう?」
「んー…っと、えっと、あ、ごめんなさい、ちょっと待ってください」
「はい、ごゆっくりどうぞ」

ショーケースに並べられた色とりどりのアイスはどれもおいしそうで、
選べる数が2つから3つに増えたところで迷う時間は変わらない。
うーん、と真剣なまなざしでアイスとにらめっこをするシエルの後ろ姿を楽しそうに見ている長身の男に
店員のお姉さんの視線が奪われていることにも、シエルは当然ながら気付かなかった。

「えっと、ポッピングシャワー!」
「…あ、はい!キッズサイズのトリプルで、チョコレートチップと
 ベリーベリーストロベリーとポッピングシャワーですね!ご注文は以上でよろしいですか?」

ようやく決めた3つの味を繰り返す店員の声はまるで何かの呪文のようだ。
けれど、シエルの表情はそれはもううれしそうなもので、
店員の声もつられて心なしか高くなってゆく。それに被さるのは、聴きなれた心地よい低音。

「それと、バニラをひとつ。会計は一緒で」
「え?…あ」
「こんにちは、シエル」
「セバスチャン、なんでおまえがここに」
「大学の帰りです。暑かったからつい。ご一緒していいですか?」

暑かった、なんて微塵も感じさせない涼げな笑顔でにこりと笑ってみせるのは、
隣の家に住む幼馴染で家庭教師のセバスチャンだった。
彼は会計を済ませると、大きな手でシエルの頭をぽんぽんと撫でる。
こんなところはまるでこども扱いなのだが、嫌な気分はしないから不思議なものだ。

「ほら、シエルおいで。アイスが溶けちゃいますよ」

カップに入った自分の分と、コーンに乗ったセバスチャンの分の商品を受け取って、
促されるままに角の居心地のいいソファの席に座って。
シエルは目の前でにこにこと自分を見ているセバスチャンの視線を感じつつも
目の前にあるだいすきなアイスの誘惑には勝てず、ぱくんとそのてっぺんにかじりついた。

「おいしい!」
「よかったですね、シエル」
「ぅん」

こんなときのシエルの笑顔は、いつもの背伸びしているような彼にしてはめずらしく年相応な
花が綻ぶようにとても愛らしいもので、セバスチャンはそれを見るのが好きだった。

この店に入った『暑かったから』なんて理由はもちろん建前で、
本当はちょうどシエルがこの店にはいってゆく後ろ姿を見かけたから。
恋人になりたてのシエルの笑顔を間近で見たいというのが本当の理由だ。
もちろん、そんなのは恥ずかしがりの彼には絶対に言えないけれど。

「セバスチャン、食べないのか?」
「あ、」
「おまえがぼんやりしてるのめずらしいな」
「ちょっと暑くて…シエル、これも食べますか?」
「…?たべる、けど、暑いなら自分で食べたらいいのに」
「ふふ、はいどうぞ」
「ん!」

手に持っていたコーンごと渡そうと思って手を伸ばしたのに――
あろうことか、シエルはぐっとからだを乗り出すとそのままぺろりとアイスを舐めとる。
赤い舌がちらりと覗く様に、セバスチャンの心臓がどくんと音を立てた。

「おいしい、あまい」

唇の端にアイスをつけたままにこにこと自分に笑いかけてくる恋人の様子がどうにも可愛くて、
セバスチャンは気がつくと空いている方の手をシエルの細い顎に添え、
そのちいさな唇へとキスをしていた。ひんやりとした感触がここちいい。
そうっと舌を入れてみれば、口の中いっぱいに広がるあまいあまいバニラの味。

「…アイス、ついてますよ?」

去り際に唇の端についていたアイスを舐め取って囁くようにそう言えば、
固まっていたシエルの頬がおもしろいくらい一気に赤く染まった。

「な、な、なにして…」
「可愛い恋人にキスしちゃだめですか?」
「わぁあっ!き、キスとか言うなばか!こんなところで!」
「ここじゃないならいいですか?」
「そういう問題じゃな…」
「では、今度ちゃんとデートしましょう。こんな所よりもっとずっと
 貴方のお気に召すところでいちゃいちゃしましょうか。ね、シエル」

慌てて回りに人がいないかきょろきょろと見渡すシエルの仕草にくすくす笑いながら
そう誘うと、シエルは丸い目をますます丸くして驚いたようにセバスチャンを見る。
その瞳には、ほんのすこしの戸惑いとうれしそうな色が浮かんでいた。

「何処に行きたいですか?貴方が好きな所なら、何処へでもお連れ致しますよ」
「なんでおまえはそんなに僕にあまいんだ。親代わりか?」
「いいえ、私はあくまで貴方の恋人ですから」
「う、」
「それと、テスト勉強を一生懸命がんばったご褒美です。よくがんばりましたね」
「…おまえが、毎日たくさん教えにきてくれたからだ。おまえこそ大変だっただろう?」
「とんでもない。貴方とたくさん一緒に居れて、嬉しかったですよ。
 …ね、シエル、返事は?デート、行ってくれますか?」

テーブルの上に置かれたままだった手をきゅっと包みこんで、
バニラのアイスよりあまい声でゆっくりと紡がれる恋人からの誘いの言葉。
恋人としての距離にまだまだ慣れていないシエルはただ頷くことしかできなかったけれど、
次に視線が合わさったときにセバスチャンはうれしそうにふわりと笑ってくれたから、
なんだかほっと安心した。

頷くだけでこんな笑顔が見れるのならば、次はもっとちゃんと返事をするようにがんばろう。
シエルはそんなことを思いながら、溶けはじめたアイスを慌てて食べるのだった。






改定履歴*
20110704 新規作成

キッズサイズとはいえ4個はさすがにおなか痛くなっちゃうだろうから、
きっと残りはセバスが「(…甘い)」とか思いながら一緒に食べてあげたんだと思います^^*
5万打フリリクで現代の街を普通にデートするふたりというのを頂いてるので、
その前フリを兼ねてついったーネタを書かせていただきましたー!ありがとうございました!
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