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5.寄せ書きと花束を

「二週間という短い間でしたが、みなさんと一緒に過ごせたことは一生の想い出です。
 これからまた私は大学に戻り先生になるための勉強をします。ありがとうございました。」

そんな形式的な挨拶ひとつにも、教室のあちこちからはいつの間にかセバスチャンの
ファンになったらしい女子生徒の「やだ」とか「寂しい」だとかいう声が聞こえてくる。
というか、女子生徒のほぼ全員だ。たった二週間でここまで…と思うと、
いかにセバスチャンがもてるかという知りたくもない事実を突きつけられた気がして、
シエルの口からは自然にため息が漏れた。

視線を感じてふと目線を上げると、その相手は女子など無視して教壇の上からじっと自分を見ていた。
目線が合うと彼はにこりと笑ってみせ、それにいちいち反応してかぁっと顔が赤くなるのがわかる。
とてもそれ以上視線を合わせていられなくて、シエルはきゅっと目を瞑って顔を逸らし
お願いだから早く終わってくれと願うことしかできなかった。





「――『先生、大好きです』『授業わかりやすかったです』
 『頑張ってください、先生になって絶対この学校に戻ってきてね!』」

数学準備室の机の上に無造作に置かれた色鮮やかな花束と、一枚の色紙。
帰り支度をするセバスチャンを待つ間手持ち無沙汰なシエルは、
何の気なしにそこに書いてある言葉を読み上げた。

「おや、そんなに嬉しいこと言ってくださるなんて予想していませんでした」
「寄せ書きだ、ばか。…ほら、ここにも『先生大好き』だって」
「妬いてくれてるんですか?」
「冗談」

くすくす笑いながら冗談めいた台詞を口にして、ようやく片付けを終えたらしいセバスチャンは、
荷物と鞄を纏めて花束の隣に置いた。これでこの教室を出れば、二週間の教育実習は終了だ。

なんだかその事実が急に寂しくなって思わず視線を落としたシエルの髪をおおきな手がふわりと撫でる。
ぱっと顔を上げればそこには眼鏡越しにやさしい笑顔を浮かべて自分を見ている幼馴染がいた。
じっと紅茶色の瞳に見つめられるとなんだか気恥ずかしくて、シエルはふいと目を逸らしてしまう。
髪を撫でていた手が戯れにピアスを撫でて、それでぴくんとシエルの肩が揺れた。

「今日で、貴方とこうやって学校でデートできるのも終わりですね」
「…はぁ!?」
「毎日会いにきてくださるのがとても嬉しくて、昼休みが待ち遠しかったです」
「ちょ…待て待て、デートって何だ」
「それはもちろん、先生と生徒が人目を盗んで空き教室で、」
「違う!そういうことじゃなくて、別に、おまえと僕はそんなんじゃ…」
「おや、今更ですか?」

一体、この幼馴染は何を言い出しすのか。つい先日は関係がばれたら面倒だからと
呼び名まで指定したくせに、最終日だからってこんなきわどい話題を持ち出すなんて。
すっかり慌てたシエルが自分たちふたりしかいないと解っている教室にも関わらず
きょろきょろあたりを見回すのを、セバスチャンは楽しそうに見ていた。
そうして、すこし離れてしまった距離を縮めようと、ぐいと細い腕を引いて
倒れ掛かってくるシエルをきゅっと抱きとめ、顎に手をやり上を向かせる。

「え…わっ!」
「会いたい、と思ったから毎日ここへ通ってくださったのでしょう?」
「会いたいなんてそんな」
「たった一日会わなかっただけで、あんなにも寂しがってくださいましたし」
「あれは…その…」
「あの日、私があなたのお家へ会いに行くのをどれだけ我慢したと思います?」
「そんなのっ!僕だって待ってた、…あ」
「ようやく、言ってくれた」

うすい肩に添えられていたセバスチャンのおおきな手が、シエルの頬をそっと包む。
紅茶色の瞳にじっと見つめられても、今度は目線を逸らすことなんてできなかった。
だってその奥に、今までみたことのないような優しい雰囲気があったから。

「ねぇシエル、どんなにたくさん生徒がいても、貴方しか見えません。
 ずっと、貴方だけの先生でいさせて下さいますか?」

いつもよりずっとゆっくり、ひとことずつ大事に紡がれた言葉。
それはとても甘やかな響きをもって、シエルの中にすぅっと入っていった。
こんなにも真っ直ぐに伝えられた言葉に対する答えはもちろん…

「――あたりまえだ!他なんか余所見したら、もう二度と会わないからな!」
「!…はい」


たったの二週間、期間限定。
それでも、ふたりの距離はこれ以上ないくらいに近くなりました。







改定履歴*
20110520 新規作成

「わざわざ貴方のお父様に頼んで、実習にきた甲斐がありました」
「え…おまえ、先生になりたかったんじゃないのか?」
「正確には、貴方の先生になりたかっただけです」
「毎日、家庭教師にきてくれてるのに」
「シエルと一緒に学校生活を送ってみたかったんです」
「…僕より、他の生徒を優先したくせに」
「あれは…ほんとうに、申し訳ありませんでした」
「ケーキで許してやる」
「はい、では今夜貴方のお家にお持ちしましょう」
「…ん」
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