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ご主人様のベッド -4-

顔の火照りがどうしてもおさまらなくて、僕はセバスチャンに背を向けた。
あの悪魔の整った顔を見なければきっとこの火照りも鼓動もおさまってくれる…そう思ったから。
けれど、横向きに抱きしめられていたのが後ろからになっただけで、
結局、僕の心臓が休まる暇なんてなかった。

「おやすみなさい、坊ちゃん」

ぴたりとからだを密着されてそんなことを言われても、当然ながら眠気なんてこない。
カーテン越しのやわらかな光が差し込むだけの静かな寝室は眠るのに最適の環境のはずなのに、
僕は自分の腰に回された執事の手が時折動く度に心臓が跳ねる。

もし自分が猫だったら、きっと全身の毛が逆立っているに違いない…
なんてことを考えながら自分を抱きしめる腕に目線をやってみれば、
いつもの燕尾服ではなく緩く捲った白いシャツと、それから覗く男らしい腕筋張った腕が目に入って、
ただそれだけのことなのにまた心臓がうるさくなった。

全く今日の僕の心臓は張り切りすぎだ、もう寝てくれていいのに…、
そんな風にぼんやり考えていると、不意に耳元でくすくすと笑う声が聞こえる。
油断していたところで耳にかかる吐息の感覚に、全身がびくんと震えて硬直する。

「…っ、セバスチャ、何…」
「坊ちゃん、そんなに意識されると、ご期待に応えたくなってしまいます」

耳の傍で響く低くて甘い声に腰のあたりがむずむずして、それを認めたくなくて、
僕はぎゅうっと自分のからだを両手で抱きしめた。
さっきから高鳴り続けている鼓動に、おねがいだからおさまってくれと願いながら。

「な、なんのことだ」
「それでごまかしているおつもりですか」
「っ!僕は普段どおりだ、何もごまかしたりなんてしてないぞ!」
「そうですか?では確かめてみましょうか」
「え…?っあ、ひゃぁ!」

何のことを言っているんだと思う暇もなく、僕の腰あたりに添えられていた
セバスチャンの右手がすっと胸のあたりまで上がってくる。
夜着越しに触れる大きなてのひらの感覚が、やたらとリアルに感じられた。

「ほら、鼓動がいつもよりずっと早くなっているでしょう?
 坊ちゃんの胸はうすいから、手に取るようにわかりますね」
「や、手、擽ったい…!」
「おやおや、そんなに可愛らしい声を出して」
「んっ、わざとじゃな…、あっ、ヤメ…」

どうしよう、やっぱり心臓の音が聞こえていたんだろうか。悪魔ってそんなに耳がいいのか?
いやいやそんなことない、…と、思いたい。
けど、聞こえてなくても触られたら鼓動が早くなってるのなんてばればれじゃないか。
それにおおきな手が夜着の上を滑る感覚はとてもこそばゆくて、
自分の声とは思えないような高い声が出るのが恥ずかしい。

「まったく、貴方という人は」
「…?、んっ、ん――!」

どうにか手を退かそうと後ろを振り向いたら、悪魔の顔がすぐ傍にあって、
ゆるく弧を描いた唇が僕のそれを塞ぐまで、そう時間は掛からなかった。






改定履歴*
20110428 新規作成
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