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ご主人様のベッド -1-

「…よし」

一日の仕事を終え、ゆったりとバスタブに浸かって考えたことがあった。
これはもう決定事項。絶対絶対、覆したりはしない。たとえ、あの変態執事に何を言われても、だ。

「いかがなさいました?」
「なんでもない」
「?さぁ、もう指先まで温まったようです。ベッドに行きましょうね」
「…ん。」

促されるまま立ち上がると、すぐに太陽のにおいのするバスタオルで包まれた。
手際よく僕のからだを隅々まで包んで水分をとってゆくセバスチャンは、
今日もやけににこにことしていて上機嫌だ。
用意されていた肌触りのいい夜着に袖を通せば、
すぐに抱き上げられてベッドへ連れて行かれる。

「坊ちゃん、失礼致します」
「?…わ、」
「汗が零れそうでしたので」
「…だからって、舐めることないだろう」
「おいしかったですよ?」

綺麗な笑顔でそんなことをさらりと言う執事に、返す言葉が見つからないまま、
僕はベッドに降ろされた。そのふわりと僕を包む柔らかい感覚に、
先程の行為への抗議なんかどうでもよくなってしまう。
いっつも、こうなんだ。こいつの笑顔と僕を扱う優しい感覚に、僕はいいように絆されてしまう。
そのことがなんだか、悔しいような、ここちいいような。

いわゆるお姫様だっこという体勢で抱えられ、額にキスをされることに
抵抗がなくなったのは、いつ頃からだっただろうか。
思えば、こういう些細なことの積み重ねがだめだったのかもしれない。
もっとしっかりきっちり、『主人と執事』としての線引きをしておけば、
こんな事態を招くことにはならなかったのかも。

――だが、こんなことは今日で最後だ。
僕はそう思いながら、ベッドに座った僕に覆いかぶさってくる執事を制して
先程バスタブの中で心に決めた言葉を、ゆっくり伝えた。

「セバスチャン、待て。今日は一緒に寝ない」






改定履歴*
20110425 新規作成
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