ご主人様のベッド -10-
セバスチャンの悪魔の赤の瞳が、すぅっといつもの紅茶色に戻っていくのを見るのは初めてだ。
驚いたようにいつもよりまるく見開かれた目は、次の瞬間ふっと細められてやわらかな笑顔になった。
それになんだか安心してしまって、強張っていたからだの緊張も解けてゆく。
「特別なちからなんて、なんにも使っていませんよ」
「ほんとか?」
「ええ、勿論。たとえ貴方を操れたとして、それでからだを繋げても、何も意味なんてありませんから」
「…え」
「私は、貴方が全部欲しいのです。魂もからだも、こころも全て」
恭しく右手をとられ、甲にちゅっとキスを落とされて。
そのまま上目遣いでじっと見つめられて、一瞬思考が止まってしまった。
これで何も悪魔のちからをつかっていないなんて、そんなの、まるで…
「ねぇ坊ちゃん?そろそろ認めてください」
「なんのことだ」
「こうやってキスされて、肌をくっつけていてもお嫌ではないのでしょう?」
「…嫌じゃないけど…」
「ではやはり、貴方は私のことを好きでいてくださっているのです」
「っ!」
「でなければ、泣いて嫌がってとっくに下がれとご命令されている筈ですよ」
ふわ、と後頭部が枕に載せられる。気が付けば僕は、ベッドに押し倒されていた。
覆いかぶさってくるセバスチャンの言葉が、やけに素直に僕の中にはいってくる。
『僕が、セバスチャンのことを好き』。
ここ最近感じていた、悪魔に対する特別な感情。あれはやっぱり、そういうことだったのだろうか。
…僕がこの気持ちを認めたら、セバスチャンはうれしいんだろうか。
僕をぎゅっと抱きしめて、またさっきみたいな笑顔で笑うんだろうか。
あれがまた見られるのならば、悪魔を喜ばせてやるのも悪くない。
「セバスチャン、僕はたしかにおまえのことがちょっとは好きなのかもしれない。不本意だけど」
「!!坊ちゃん、では…」
「勘違いするな、僕はおまえのものになんかならないぞ」
「え、」
「おまえが僕のものになるんだ。からだもこころも、全て」
「それって」
「…はやく、いっぱい僕のことを可愛がれ。もっとちゃんと、僕に好きだって自覚させてみせろ」
紅茶色の目をきっと見据えて下した命令に対する悪魔の返事は、もちろん―…
「お任せください、マイロード」
さぁ、もう後戻りできない。
改定履歴*
20110510 新規作成
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