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5.貴方の望みでもそれは無理です

「…嫌いだ、おまえなんか」
「坊ちゃん」
「嫌い、きらいだ!なんでそういうことを、簡単に言ってしまうんだ」
「簡単にではないですが…それなりに悩みましたし、我慢もしました」
「僕だって、悩んだし我慢もしてる!でも言わないように我慢してたのに、お前が言うから」
「え…坊ちゃん、それは」
「…」
「――どうして、認めてくださらないのですか?
 私のことを、好きでいてくださっているのでしょう…?」

そう、シエルも本当は、セバスチャンのことが好きだったのだ。
何しろこの悪魔は、真っ直ぐに自分のことだけを見てくれるのだから。
ずっと傍にいて、理解してくれて、手助けして、時には叱ってくれる。
セバスチャンが普段の生活の中で自然にシエルへ愛情を抱くようになったのと同じで、
シエルだって全身全霊をかけて自分に仕えてくれる
優しい悪魔に同様の気持ちを抱いてしまうのも、おかしなことではなかった。

「だって、おまえは男で、…ぼくだって男だ」

しばらくの間の後、ちいさなちいさな声で紡がれた言葉。
それはシエルがずっと胸に秘めてきた想いを口にできなかった最大の理由だった。
たしかに伯爵である自分が使用人である執事にこのような想いを抱くなんて、
とか、そういうプライドが邪魔をしたこともある。
けれどそれよりもずっとずっと大きくて、覆しようのない事実。

セバスチャンは口にしたとたんにぽろぽろとシエルの頬を伝う涙をそっと拭ってやり、
膝の上のからだをもう一度きゅっと抱きしめてやった。
そうすれば、今度は大人しくだきしめられる可愛らしい主人。
ぐすぐすと泣きながら、自分の胸へと寄りかかってくれることが、たまらなく嬉しかった。

「そんなことを気になさっていたのですか」
「そんなことって、だって、」
「好きになってしまったものは仕方ないでしょう?」
「すき…?」
「そう、好きなのです。私も貴方も、お互いに、お互いのことを」
「でも」
「もう黙って。何も考えられないようにして差し上げますから…」

視線をあわせたまま、悪魔はシエルに口付けをした。ちゅうっと音をさせて、もう一度。
進入させた舌でシエルのそれを絡めとり、吸うようにして緩く噛んでみれば
シエルの口からはあまい声が漏れて、交互に絡ませた細い指にちからが篭ってゆく。

さくら色に上気した頬へとキスを落としてみれば、それまできゅっと閉じられていた目が
ゆっくりと開かれて、深い蒼の瞳がじっとセバスチャンの紅茶色を見つめる。
蒼を彩る長い睫毛は自然と滲んだ涙で濡れており、それはシエルの蕩けたような表情と相俟って
悪魔の欲を煽った。

口角をあげ綺麗な笑顔を作った悪魔が、腕の中に抱いていたからだをもう一度、
ソファへと押し倒していく。今度はシエルと視線を合わせたまま、ゆっくりと。

「だめだセバスチャン、これ以上は」
「…いくら貴方の望みでも、それは無理です」
「――っ、ぁ、んっ…」

シエルが決死の思いで口にした、否定の言葉。
きっと、もうその言葉が本心からのものではないということはお見通しなのだろう。
悪魔はそれを聞き入れてなどくれなくて、そのまま、うるさいとでも言うようにちいさな唇を塞いでしまった。
ただその感覚はとてもやさしい、きもちのいいもので――

「…愛しています、シエル」

思わず目を閉じてしまったシエルの耳に響く、自分の名前を紡ぐ音。
それと一緒に、深く深く、もう戻れないところへ堕ちてゆく音が、きこえた気がした。





end

改定履歴*
20110415 新規作成
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