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4.ちゃんと意識してください

ぎゅっと抱きしめられたまま、耳元で紡がれた悪魔の告白に声が出ない。
どきどき高鳴る鼓動が耳に届くのを気のせいだと思い込んで、
やっとの思いで身を捩り体温の低い腕から抜け出してみても、腕に添えられたままの悪魔の手。

セバスチャンがシエルの執事になってから3年、着替えや入浴をはじめ
身の回りの世話全てを任せていたのだから、触られることには慣れている筈なのに、
触れられただけでこんな風に鼓動が高鳴るのは初めてだ。

「おかしなことを言うな、…そんなのありえない」
「何故そう思われるのです?」
「おまえは悪魔で僕は人間で、僕たちの間にあるのは契約だけだ」
「契約だけ――ですか?」
「…そうだ。それでどうやって恋愛感情なんて生まれるっていうんだ」

せっかく抜け出した悪魔の腕。背中と後頭部に腕がまわされ、
また抱き寄せられるのを、シエルは拒むことができなかった。
そっと撫でてくれる感覚が、たまらなく心地よかったから。
思わず目を瞑って目の前の肩口に頬を摺り寄せてみると、ふわりと花の香りがした。
庭に咲き誇る白薔薇のにおい、シエルの大好きなにおいだ。

「そうですね…紅茶の時間にきまって見せてくださる花の綻ぶような笑顔や、
 家庭教師の先生方相手に一緒に一生懸命お勉強する真剣な表情、
 それから、ファントムハイヴ家当主として相応しくあろうとぐっと背伸びしたお姿。
 そのどれもが、私にとっては可愛らしくて仕方のないものでした。
 それが愛情に変わるのは、そう不思議なことではないでしょう?」

セバスチャンの低くてあまい声が、ふわふわとシエルの肩へと降ってくる。
それは3年も一緒にいたのに聞いたことの無い、初めてのやわらかな声だった。
ぽんぽんと背を叩きながらゆっくり話すものだから、シエルの緊張も次第にとけてゆく。

「まぁそれでも、初めはこんなにちいさなお子様に私がトクベツな感情を抱くとは思っていませんでしたが」
「馬鹿にしているのか」
「いいえ、とんでもない」

からかうような言葉に拗ねた言葉で反論してみれば、セバスチャンは
くすくす笑いながらシエルの顎に手を添え、くいと上向かせた。

「最近では、貴方が無防備に私にからだを預けてくださる度に自分を抑えるのに大変でしたよ」
「な、に、言って…」
「貴方は?違うのですか?私を見ても、何も感じませんか?
 胸が高鳴り、指先までもが熱くなるような感覚に、覚えがありませんか…?」

全くこの悪魔は、幾通りの声を持っているのだろう。
しずかに響く声で想いを打ち明け、やわらかい甘い声で安心させて、
今度は聞いたことのない艶やかなオトナの声でじっと瞳を見て指を絡ませる。

「今だって、いつもは白い貴方の頬は、庭を彩る桜と同じうすい桜色。指先だってほら、こんなに熱い」
「やめ、…違う!これは部屋が暑いだけで」
「では、この鼓動は?先程よりもずっと、早くなっていますよ。私が近づいたからでは?」
「そんなのっ、気のせい、気のせいだ!おまえなんかただの執事だ!」
「いいえ、執事である前に貴方をお慕いしているただの悪魔です」

シエルの蒼の瞳を真っ直ぐに射抜く、セバスチャンの視線。
膝の上に向かい合わせに座らされて指を絡めとられ、綺麗な紅茶色の瞳にじっと見つめられて
聞いたこともないような声で、予想してもいなかったことを言う執事の声が、
はじめてのことばかりが続いて混乱してしまったシエルの脳に、直接響く。

「ちゃんと意識してください。私は貴方のことが、好きなのです」






改定履歴*
20110412 新規作成
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