3.恋愛感情ですと言ったら?
「も、触るな…僕のことなんか好きでもなんでもないくせに」
頬に添えられた白い手袋の大きな手をそっと退かしながら、呟かれた言葉。
その声はあまりにもちいさく頼りなくて、少し震えているような音になって執事の耳に届く。
そのままぷいと横を向いてしまったシエルの蒼の瞳から、つうっとひとすじ、涙が零れ落ちたが、
それがソファに落ちる直前に、添えられた白の手袋に吸い込まれた。
「坊ちゃん、それはご命令ですか…?」
「――おまえが僕に執着するのは、僕がおまえ好みの味に下拵えしたエサだからだろう」
「いいえ、違います」
「違わない、おまえはいつか僕の魂を食べるために僕の傍に居る。
それ以外に理由なんてないくせに、…なのに、べたべた僕に触るな!」
セバスチャンは、目を逸らしたまま拗ねたような声で拒否の言葉を口にするシエルの
ハーフパンツから手を離すと、少し困ったように眉を寄せた笑顔を作って
ちいさなからだを抱き上げ、自分の膝の上に向かい合わせに座らせた。
そうして、ぎゅっと抱き締めるのだ。左の瞳と同じ蒼の髪をゆっくりと撫でながら。
「確かに初めはそうでした、ですが…貴方の傍に少々長く居過ぎたのかもしれません。
今私にあるのは、エサを盗られまいとする捕食者のような感情ではありませんよ」
「じゃあ何だって言うんだ」
「恋愛感情ですと言ったら?」
改定履歴*
20110410 新規作成
- 3/5 -
[前] | [次]
←main
←INDEX