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1.忠誠心は邪魔なだけです

それは、本当に突然だった。
いや、本当の本当は、突然なんかんじゃなかったのかもしれない。
だって僕たちは、きっとお互いの気持ちに気付いていたのだから。

とにかく、街での仕事が終わり屋敷に戻った後の、衣装室での着替えの時間。
僕はジャケットを脱がされた後、リボンを解こうとする大きな手に誘われるよう顎を上げた。
そんな、いつもとなにひとつ変わらない日常のなかで、僕の執事はこう言ったのだ。



「忠誠心なんて、邪魔なだけですね」



悪魔の口から放たれた言葉の意味を理解する暇も無く、シエルの見ていた景色は一変した。
見慣れた漆黒の燕尾服の変わりに、随分身長差があるはずの執事の顔が目の前にあり、
その背景にあるのは天井。頭にはやわらかなクッションの感覚。
それで、ようやく自分はソファに寝かされたのだと理解する。

なんだろう、休憩か?僕はそんなに疲れて見えたのだろうか。
休憩にしてもソファで寝るのは嫌だ。しかも、まだ着替えすら終わっていないではないか。
僕は早く着替えを済ませて、紅茶と仕事の後のご褒美であるスイーツを楽しみたいのだ。
そう思ったシエルは、無礼な執事に舌打ちをしながら退かそうと声を掛ける。

「何をして、――…っん、ぅ!」

『何をしてる、僕は疲れてるんだ』の言葉は、半分しか言えなかった。
シエルのちいさな唇を、セバスチャンのそれが塞いでしまったから。
一瞬真っ白になった頭を一生懸命覚醒させて、ようやく今何をされているのか理解したシエルは
自分に覆いかぶさっている男の肩をどんどんと叩いて、行為をやめさせようと試みた。

悪魔の舌が口内へと無遠慮に進入してくる感覚に背筋がぞくりと震える。
ただそれは嫌悪ではなく、快感。確かに口内を蹂躙されているはずなのに、たまらなく気持ちいいのだ。
そんな自分の感覚に恐ろしくなり、目には勝手に涙がじわりと滲んできた。

「ん、ん…、ぷは、はぁ、」
「坊ちゃん、これくらいで息を乱していては保ちませんよ」
「なに、何のこと…」
「今日は、たくさん可愛がってあげることにしましたので」

自分に覆いかぶさったまま、綺麗に整った悪魔の笑顔でそういう執事に、言葉がでない。
執事が主人に対して『可愛がる』何て言葉を使うなんてこと、あっていい訳ないだろう。
ここは毅然と、この執事を躾けなおしておかなくては。

「…おまえの言ってることの意味がわからない。大体、主人に何をするんだ、馬鹿者!」
「馬鹿、ですか…そうですね、もっと早くこうしていればよかったです」

口調を強めて思い切り睨んでやった…はずなのに。
執事の表情は変わらず、ふたりの距離も吐息が触れそうに近いまま。
事態はシエルにとってなにひとつ好転していなかった。
真っ直ぐに自分を見据える視線から目を逸らすこともできず、
押し倒されて唯一自由になる腕で執事の肩を押し返そうとしても片手で簡単に退かされてしまう。

それでも、このままこの男の好きにさせるわけにはいかなかった。
シエルの中の伯爵としてのプライドと、あるひとつの感情がそれを許さなかったのだ。

「待て、おまえ、執事の美学とやらはどうしたんだ、こんなことしていいと思ってるのか」
「先程も申し上げたでしょう?忠誠心は邪魔なだけです、と。
 目の前には無防備に私にからだを預けてくださる愛しい主人がいるというのに、
 このままではなにも進展しない。もう私は、貴方が気付いてくださるのを待つのに飽きました」






改定履歴*
20110408 新規作成
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