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もしかして自覚し始めてくれたんですか?

ふわり、浮上してくる意識に合わせてゆっくりと瞼をあける。
蒼の瞳にいちばんにとびこんできたのは、ベッドの中だというのにきっちり閉められたネクタイ。
それから、そっと視線を上に移せば、切れ長の目を縁取る漆黒の長い睫毛。
そう、シエルのからだを包んでいるのは、暖かな掛布ともうひとつ、自身の執事だった。

睡眠なんて要らない悪魔の癖に、とか、なんで主人のベッドに執事が、とか、
言いたいことはたくさんあるけれど、その寝顔はいつもの完璧な笑顔とは違う、
無防備そのもので…黙ってると可愛いところもあるんだな、なんて考えてしまう。

「…ん」
「っ、わ」

シエルが微かに身じろいだのがわかったのか、そのからだを抱きしめている男の腕に
すこしだけ、力がこもった。まるで、だいじな宝物を腕の中に閉じ込めるように。
それが何だか嬉しくて、暖かい胸に頬を摺り寄せてみれば
とくとくと規則正しく響く鼓動が耳に届き、それはひどくシエルを安心させる。

――いつからだろう。こうやって、セバスチャンの腕の中で目を覚ますことに慣れてしまったのは。

初めは、べたべたとくっついてくる執事にどう対応していいのかわからなくて、戸惑ったこともある。
あの整った顔でシエルを抱きしめ、キスをして、好きだと言う悪魔の言葉が信じられなくて。
だってそうだろう、シエルとセバスチャンは人間と悪魔、あまつさえ、
目的を達成すればシエルはセバスチャンに魂をくれてやるという契約に縛られているのだから。
てっきり獲物を逃がさない為の悪魔の常套句なのかと疑ったこともあるくらいだ。

けれど、いくら疑ってみても、あの紅茶色の瞳にはすこしの嘘も見当たらなくて…
何より、自分を抱きしめている力強い腕の感覚と暖かさが、これ以上ないくらいに心地いいのだ。
できることならばこうやっていつまでも包まれていたい、なんてことを思ってしまうほど。

――何、考えているんだ僕は。

そこまで考えて、ふと我にかえったシエルは顔を真っ赤にしてふるふると首を横に振った。
ありえない、そんな、ファントムハイヴ伯爵で女王の番犬という役目を負った僕が
ただの執事にこんなことを思うなんて。大体、包まれていたいだなんて、そんなの、まるで、
僕までセバスチャンのことを…そこまで考えたところで、頭の上から聞きなれた声が降ってくる。

「おはようございます、坊ちゃん」
「!!わぁあ!」
「どうしたのです、朝からお元気ですね?早起きですし、えらいえらい」
「…こども扱いはやめろ」
「はい、申し訳ありません」

今の今まで寝ていたとは思えないくらいににこやかな表情で、シエルの髪を撫でながら
ご機嫌で甘やかす言葉を口にする執事の顔を見ていられなくて、
シエルは赤くなった頬を隠すようにまた目の前の肩口に肩を埋めた。

「坊ちゃん?坊ちゃん、どうされましたか…?」
「うるさい、僕はまだ眠いんだ。それに寒い。…もっとちゃんと、ぎゅってしろ」
「………」
「返事は」
「…っ、イエス、マイロード」


嬉しそうな声で返事をしてまた自分を抱きしめる執事の腕の感覚を
目を瞑って受け入れながら考えた。

――もし本当に、この執事がいなくなってしまったらどうしよう。

あの日、4月1日。戯れに嘘をつかれた日から幾度となく、考えてしまう。
そしてそのたびに、どくどくと心臓が焦ってしまうんだ。
もしかしたら僕はおかしくなってしまったのかもしれない。
ただの変態執事だとばかり思っていたけれど、…いつの間にか、
僕の中ではあいつの存在がそれなりに大きくなっていたのかも。
いやいやそんなのありえない、僕があの変態に特別な感情を持っているなんて…

「っ!なに、なにしてるんだセバスチャン!!」
「寒がる坊ちゃんをしっかり暖めて差し上げようと思いまして、まずはこの可愛らしいお尻から」
「…馬鹿!!!なんでおまえは事ある毎にそんなに変態なんだ、
 僕がおまえなんかにトクベツな感情なんて、絶対絶対ありえないからなー!!」

ああ、やっぱり、駄目。駄目だ。
きっと近くに居すぎたから、何だか距離感があいまいになってしまったんだ。
僕の貞操を守るためにも、明日からはこの変態執事をベッドに入れるのをやめよう…
シエルはセバスチャンの魔の手から逃れようとじたばたしながら、心の中でそう誓ったのだった。

カウントダウンは順調に進んでいる…?ようです。





end

改定履歴*
20110423 新規作成
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