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カウントダウン

満開を迎えた桜の花が、ファントムハイヴ家当主の寝室にここちよい香りを運んでくる。
いよいよ春も本番という頃の、あたたかい夜のこと。
燭台の灯りも消えた寝室の大きなベッドの上には、当主であるシエルと、
その執事であるセバスチャン・ミカエリスの姿があった。

「おい」
「はい、坊ちゃん。如何いたしましたか?」
「如何いたしましたか?じゃない。近い」
「嗚呼…はい、そうですね。けれど、どうぞお気になさらず」
「無理に決まっているだろう、離せ!」

先に言っておくが、シエルは夜着を纏っているし、セバスチャンは燕尾服こそ脱いでいるものの
それ以外はシャツもベストもネクタイも、きっちりと身につけている。
ただ、ふたりの距離はというと、普段よりずっとずっと近いもので――
そう、悪魔は片腕を半ば強引にシエルの頭の下に滑り込ませて腕枕の格好にし、
自由になる手は細腰に回しているのだ。

「坊ちゃん、それは無理なご相談です。何しろ私は今、貴方のお布団なのですから」
「なっにっが、『お布団ですから』だ!この変態悪魔!」

不自然なまでに近いその距離のせいでシエルは当然眠りにつくことなどできず、
真っ暗な部屋の中だというのに目が冴えきってしまっていた。
悪魔はというと、当然ながら睡眠を摂る必要なんてないから、ご機嫌で腕の中の体温を満喫しているだけ。
シエルにとっては迷惑な話だ。明日も朝からファントム社社長としての仕事が待っているというのに、
思うように睡眠が取れないなんて。

「おまえ確か、掛布を冬物から春物に変えるって言ってなかったか?」
「ええ、もうだいぶ春めいて暖かくなってきましたからね。昨日は寝汗をかかれていましたし」
「何故おまえがそんなことを知っているんだ…」
「何故って、それはもちろん、坊ちゃんの寝姿を私は毎日毎日舐めまわすように観察して」
「うわぁあもういい、知りたくない」
「そうですか?」
「残念そうな顔をするな」
「残念です。私の愛情を知っていただくチャンスでしたのに」

苦々しい思いでちっと舌打ちをして、何故このようなことになったのかを
自分を腕の中に閉じ込めて離そうともしない執事に問いただしてみる。
その過程で何か今余計な、知りたくもない情報が耳に入ったきもするが聞かなかったことにする。
シエルは賢いこどもだった。

「〜〜っ、話を戻そう。何故ここには春物の掛布がない?執事が主人のベッドに入っているのは何でだ?」
「あんなものより私のほうが遥かに優秀ですよ?坊ちゃん」
「意味が解らない」
「仕方ないですねぇ。では身体に教えてさしあげましょう」
「変な言い方するな!」
「坊ちゃんはまだまだお子様で体温も高く、寝返りも多いですから、
 寝返りでお布団を蹴り飛ばしてしまうかもしれないでしょう?
 布団は自力で戻ってこれず坊ちゃんがお風邪を召される心配がありますが、
 私ならばずっとぴったり寄り添って包んで差し上げます」
「うわぁ」

思わず口から出たのは、悲鳴とも呆れ声とも判断の付かないものだった。
口角を上げて完璧な悪魔スマイルを作ってそんなおかしなことを言い出す執事に、
身体をぞわっと悪寒が駆け抜ける。もうこの執事は本当に駄目だと、
一緒のベッドにいては僕の貞操とかいろんなものが駄目だとそう悟ったシエルは、
目の前の紅茶色の瞳から目を逸らすことのできないまま、
いやいやと首を振りながら自分を抱きしめているからだに手を付いて、抜け出そうと試みた。

だが、手袋をしていない執事の大きな手が、シエルの腕をすっと撫でるのだ。
まるで逃がしませんよとでもいうように、綺麗な笑みを浮かべながら。

「坊ちゃん?嗚呼いけません、鳥肌が。お寒いのですね?」
「違う馬鹿、おまえが予想以上に気持ち悪いこと言うからだ!」
「遠慮なさらなくていいのですよ?しっかり暖めて差し上げます。ほらこのように」
「!!離せぇええ」
「こら坊ちゃん、夜ですよ。声を落として」
「おまえが僕の腰と尻から手を離せば静かにする!」
「それだけは駄目です、却下です」
「執事が主人の命令にさからうなんて…、そうだセバスチャン、命令だ!今すぐ僕を…」
「もう黙って」
「っん、んんー!ん、ぅ、」

――ああ、何故僕はこの悪魔にキスされるようになってしまったんだろう。
もっとちゃんと、初めてされたときに拒否しておけばよかったかも…

シエルの脳裏にはそんな自責の念が浮かんだが、それも一瞬。
経験豊富な悪魔の巧みな舌遣いで、名実共に幼いシエルの意識は
あっという間にとろとろに溶かされてしまうのだ。
幾度も角度を変えて優しく口内を蹂躙されれば、抵抗する意思もちからも消えてしまう。

「――っ、ふぁ」
「坊ちゃん…、『ご命令』の続きは…?」

すっかり息が上がってしまったシエルとは対照的に、涼しい顔でそんな意地悪を言う悪魔に、
悔しいけれど勝てる気がしない。現に、今、シエルのちいさな手は悪魔のシャツにきゅっと縋り付いていた。
まるで、足りない快楽を強請るように。

「〜〜っ、セバスチャン、命令だ!早く僕を寝かしつけろ!」
「…イエス、マイロード」

そういえば、キスもだけど添い寝を許したのはいつだっただろう。
こうやってだんだん触れる事が多くなっていって、
そのうち戻れないところまで行ってしまうんじゃないだろうか――
そんなことを考えながらも、シエルは頬や額に降ってくる甘い感覚を拒否することができないでいた。


可愛い坊ちゃんが悪魔にたべられてしまうまで、後何日?





end

改定履歴*
20110417 新規作成
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