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嫉妬してるの?

窓の外は雨。

ここ数日降り続ける雨の音と、高い湿度。
最近いらいらするのは、きっとそのせい。

カーテンを開けても空は暗く、昼も夜もないみたいでなんだかすっきりしないし、
仕事の合間にお気に入りの白薔薇の庭園へふらりと足を向けることもできないから。
ただそれだけで、ほかに理由なんて絶対にないと思っていたんだ。



「坊ちゃん、アフタヌーンティをお持ちいたしました」
「ん」
「今日も雨のせいか、すこし冷えますね」
「…そうだな」

いつもの時間にいつもの場所へ、セバスチャンが紅茶とスイーツを持ってくる。
これはあいつが僕の執事になってから、天気に関わらず続けられている日課だ。
きれいに磨かれたティーポットからひとすじ、ティーカップにむかって落ちていく
紅茶の香りは、仕事で疲れた頭をすっきりさせてくれる。
スイーツだっていつもどおり、僕の好みの甘さだ。

――ただひとつ、いつもと違うのは。

「下がっていいぞ」
「え?」
「紅茶の用意はもうできただろう。下がれ、セバスチャン」
「坊ちゃん?どうされました」
「別に、折角の休憩時間くらい悪魔の顔を見たくないだけだ」

そう、いつもと少しだけ違うのは、目線の先の執事の様子。
いつもならば紅茶とスイーツを食べる僕をにこにこと眺めながら、
クリームが口の端についているだの紅茶で火傷をしなかったかだの何だかんだと理由をつけて
やたらキスとかそういうのをしようとベタベタするくせに、今日はそれがないのだ。

…いや、別に、そんなのはなくてもいいんだ。
大体いつもこの悪魔はスキンシップ過剰というかなんというか、とにかくそれはなくてもいい。
ただ、紅茶を淹れる合間にもちらちら外を気にしていたのにも僕はちゃんと気付いてた。
主人を前にして余所見とは職務怠慢もいいところではないか。

「ご機嫌斜めですか」
「…無駄口たたく暇があるなら、さっさと下がれ」
「ですが」
「しつこいぞ、セバスチャン!下がれと言った筈だ。庭でも裏口でも、好きなところへ行けばいいだろう」

思わず口をついて出た自分の言葉にはっとする。しまった、こんなこと言うと、まるで――

「坊ちゃん、それって、もしかして」
「〜〜っ」
「嫉妬、とか」

全く、変なところで勘のいい悪魔だ。そう、ほんとは、気付いてたんだ。
きっとこの悪魔のポーカーフェイスを崩しているのは、一匹の黒猫だってことくらい。

大方、数日続く冷たい雨に、お気に入りの彼女が震えていないか気になって仕方ないのだろう。
本来ならあの黒猫を拾ってタオルで拭いてやり、暖かな部屋に迎え入れてやりたいのだ、と思う。
でもセバスチャンは僕の忠実なる執事で、猫アレルギーの僕の為にそれをしなかった。
執事の美学とやらを貫く男が、僕にすら見破られるくらいに気を取られていようとも、だ。

「う、うるさいうるさい!もう、さっさと行け、あの黒猫を懐にでも入れてやればいいだろう」
「坊ちゃん…」
「なんだ」
「坊ちゃんかわいいです!!そんな、不意打ちの嫉妬なんて反則です!」
「!!僕はそんな、嫉妬なんてしてないぞ!勘違いするな!」
「坊ちゃん申し訳ありません、ほんの少しの間だけ、彼女を抱っこすることをお許しください。
 それが終われば、私は髪の毛一本まで坊ちゃんのものです、
 貴方がお仕事する時もベッドでお休みになる時もずっと貴方を懐にいれて、
 寒くないように暖めてあげますからねっ!」
「遠慮する。気持ち悪いことを言うな」
「照れなくてもいいんですよ!」
「照れてない!」
「?…あ、念のため言っておきますが、彼女は貴方の代用みたいなもので、
 本命は貴方のほっぺたですからね?ですから安心して」
「…猫を主人の代用品にするなんてとんだ執事だな。ていうか本命はほっぺたか」
「口が滑りました」
「否定しろ!バカ悪魔!」

その後、すぐに裏庭へ出かけていったセバスチャンはたっぷり1時間経った後に
にやけただらしない顔で戻ってきたかと思うと、あろうことかそのまま僕を抱きしめた。
案の定僕はヤツの服についていた猫の毛でアレルギー反応を起こし、くしゃみ連発だ。

もう本当に、あのバカに抱っこ禁止令を出そうと思ったある雨の日の出来事だった。





end

改定履歴*
20110406 新規作成
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