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うそつき、のその後

『坊ちゃん、今までありがとうございました』
「セバスチャン?」
『貴方と過ごした日々は、それなりに楽しかったですよ』
「…だめ、だめだ、僕の傍からいなくなるなっていったはずだ!」
『でももう私、おなかがすいて限界です。
 それとも、あなたをつまみ食いさせていただいてもよろしいのですか?』
「それ、は…」
『では、…やはり、さよならですね』
「――行くな、セバスチャ…っ」

思い通りに動かないからだを無理やり叱咤して、一生懸命に伸ばした手は空を切った。
そこでぱちりと目が覚めて、今の一連の流れが夢だったことを理解する。
だが、つまみ食いさせろだの僕の傍にいろだの、あれではまるで
主人と執事というよりは…いや、気のせいだそんなの。
シエルはそう自分に言い聞かせるように、慌てて頭をふるふると横に振った。

「…くそっ」
「どうなさいました?」
「うわぁ!な、なんでここに…いや、いつからいたんだ」
「何故って…毎朝この時間に起こしてさしあげているでしょう?」

今の今まで頭の中にいた当の本人の登場に、シエルの心臓がどくどくと音を立てる。
だがセバスチャンはというと、そんなことにはまるで気づかない様子で
鼻歌でも歌いそうな程に上機嫌で紅茶を淹れて、それをシエルへ手渡した。

「はい、坊ちゃん。本日はミルクティをお淹れしました」
「…ん」
「ミルクたっぷりですから、落ち着きますよ」
「…ん?」
「夢で、すごく焦ってらっしゃったでしょう?」

思わず口に含んだミルクティを噴出しそうになるのを必死で堪えて
次の瞬間げほげほと咳き込むシエルの背を、セバスチャンの手がゆっくり撫でる。
そうして、いつもどおりの悪魔らしいきれいな笑顔で、顔を覗き込むのだ。

「嗚呼坊ちゃん、大丈夫ですか?」
「!!!貴様、何で夢のこと…」
「光栄です、夢でまで私のことを求めてくださるなんて」
「求め…って、おかしな言い方をするな!あれはそんなんじゃ」
「そんなに恥ずかしがらないでください、とってもかわいかったですよ」
「おい待て、何で近づいてくるんだ」
「『僕の傍からいなくなるな』とのご命令でしたので、これ以上ないくらいにお傍にいようかと」
「わぁあ、ちょ、待て待て!近い」

ご機嫌な執事はこれ以上ないくらいににこにことした笑顔を浮かべてシエルの手から
カップを受け取り、ワゴンに置くとそのままベッドに乗り上げ、ぐっとシエルに覆いかぶさってゆく。
ゆるく弧を描いたくちびるがシエルのそれをふわりと塞ぐまで、そう時間はかからなかった。

「…ん、ぅ、んっ」
「…」
「――、ふ…ぁ」

はじめはそっと触れるだけだったその感触。
悪魔の舌がシエルの唇をなぞり、その隙間から口内へと進入すると、
セバスチャンの肩に抵抗するように置かれていたシエルの手からちからが抜ける。
舌先を吸われてやわらかく食まれるような感覚に自然と甘い声が漏れた。

『…ほんとうは、もっと、お傍に居たかった。唯一無二の貴方の執事として、ずっと傍に。
 外敵に足を掬われないようその体を抱えあげ、雨が降れば濡れないようにコートで包むように、
 貴方のことをお護りしたかったです。――いつか貴方の生が終わるまで、ずっと。』

頭の中がふわふわと溶けていくような感覚の中でやけにクリアに浮かんでくる、
あの日、やさしく頭を撫でられながら言われた言葉。
それがなんだかひどくくすぐったくてきゅうっと目を閉じると、
なぜか後頭部までがふわふわした感覚に覆われた。

「!!!いた、坊ちゃん…時計は、反則で、す」
「うるさいバカ犬!一年間はキスしないって言っただろ!」
「あれ本気だったんですか!?」
「当たり前だ、なのに一週間もたたずそれを破りそれどころか押し倒すバカがどこにいる」
「だって坊ちゃんだってきもちよさそうにしてらっしゃったじゃないですか!」
「わぁあ黙れ!ていうかいい加減僕の上からどけえぇ」
「…だめです、時計で殴られた傷が癒えるまでもうちょっと坊ちゃん補給させてください」

答えを待たずに自分をぎゅうっと抱きしめてくる執事の体温。
それから、ふわりと香るお気に入りの薔薇のにおいが思ったよりずっと心地よくて、
結局これといった抵抗ができなかったシエルがその腕から解放されるまで
たっぷり10分程度の間、セバスチャンは数日ぶりの主人を満喫したのだった。





end

改定履歴*
20110404 新規作成
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