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見つかっちゃった

ファントムハイヴ家の、美しく咲き誇った白薔薇の庭園に置かれた、ひとつのベンチ。
あたたかな太陽の光が注ぐその場所では、先程から、途切れることなく甘い声が響いていた。
声の主はもちろん、この邸宅の主人であるシエルである。
仕事の合間に休憩をとろうと来たこの場所で、執事の膝の上にいわゆるお姫様だっこの形で座らされ、
数え切れない程のあまくとろけるようなキスを一身に受けているのだ。

「…っあ、ふ、セバスチャ…や」
「坊ちゃん…」
「ぁ、も だめ…だって」
「何故です?こんなに蕩けた瞳で見つめてくださっているのに」

セバスチャンは意地悪な悪魔の表情でくすくす笑いながら、
飲み込みきれずにシエルの唇の端から零れている唾液をぺろりとなめとり
そのまま赤く染まった目元へとキスを落とした。

「いいこですから、じっとして」
「〜〜も、ばか!やめろってば!」

恥ずかしがって暴れる腕の中の恋人が落ちないようにと支える腕に力がこもり、
そのことにいっそう慌てたシエルは、目の前にあったセバスチャンの首筋へ
がぶりとちいさな歯を立てる。予想だにしていなかった箇所への攻撃に、
いくら悪魔と言えども驚きを隠しきれなかったらしく、
セバスチャンはキスを中断して腕の中の毛を逆立てた仔猫を涙目で見下ろした。

「いたいです坊ちゃんー…」
「情けない声をだすな!大体なんでここにお前がいるんだ。昼寝できないじゃないか」
「今日はすこし肌寒いですから、坊ちゃんのベッドになろうかと思って参りました」
「気持ち悪いことを言うな。それと、どさくさにまぎれて尻を触るな」
「ちょっとくらいいいじゃないですか。減るもんじゃないですし」
「大切なものが無くなる気がするから駄目だ」
「坊ちゃんガードが固すぎです」
「…。大体、キスは許したが、それ以上のことを許した覚えはないぞ」

はぁ、と盛大なため息をついてみせる自身の執事を殴りたくなる衝動を抑え、
シエルはできるだけ冷静に、冷たい口調ではっきりきっぱり拒絶の言葉を口にしてみる。
そう、いつの間にか執事にキスをされるようになってしまったのだ。初めは拒否していたものの、
もう面倒くさくなって最近は犬が飼い主に懐くようなものかと好きにさせていたのだが、
それが変態を助長させる結果になってしまったのだろうか。
もしそうならば、このあたりで主人として駄犬を厳しく躾けなおしておかないといけない。

「そこなのですよ。何故キスだけなのです!?」
「キスだけって…考えが逆すぎて驚いたぞ」
「キスだけじゃ足りません、欲求不満になるに決まっています!!」
「知るか馬鹿」
「ひどいです!坊ちゃんは私が毎晩どんな思いで
 自己処理しているか知らないからそんなこと言えるんです!
 自己処理ってなんだか解りますか?自分のアレをですね、こうやって」
「うわぁあヤメロ、知らないし知りたくない!
 年端も行かない子供相手に何吹き込む気だお前は!」
「坊ちゃんは子供だけど社長で私のモノだからいいんです!」
「もう訳が分からない、黙れ変態。僕はもう昼寝する。離せ!降ろせ!」
「嫌です!絶対ぜったい降ろしません!
 坊ちゃんをお姫様だっこするのだけは絶対に譲れません!!」
「なんでそこまで意地になるんだ」
「何故って…坊ちゃんの仔猫のようなあたたかさと、
 ふわりと香るあまいにおいを感じるのが私のしあわせなんです。
 ですから、ねっ?このまま私の腕の中でねんねしてくださって構いませんから!
 むしろ歓迎いたしますから!私をベッドだと思ってさぁどうぞ!」

あまりに馬鹿らしいことを最高に真面目な顔で切々と語る執事に言葉が出ない。
シエルが何か言いたげにぱくぱくと口を動かすのを横目に、セバスチャンは
腕の中の主人兼恋人のまっかに染まった頬に唇で触れた。
そのまま唇を滑らせ、さくらんぼのように赤く色づいた唇を塞げば、
抵抗するように肩を押し返していた幼い手から力が抜けてゆく。

ちいさな舌を絡めとって、呼吸ごと飲み込むように深く、深く。角度を変えて何度も口付け、
腕の中のからだがくたりとなる頃を見計らってお互いの顔が見える位置まで距離をとってみれば、
涙をいっぱいに湛えた深い蒼の瞳が甘えるように見上げていた。

「もう…っだれか他の使用人に見られでもしたらどうするつもりなんだ」
「大丈夫ですよ、仕事を指示してありますから。ここには誰もきません」
「でも、もしもの事とか、あるかも…」
「それはそれで、いいじゃありませんか。
 私は誰にだって坊ちゃんは私のものだと自慢したいです」
「馬鹿…」

こんなに蕩けさせられてもなお、強気な主人のことが愛しくて仕方がない。
このまま、腕の中で拗ねたように甘えている主人を私室までお連れすれば、
今日こそキスどまりではなく最後までいけるかも。きっと、3年越しの望みがようやく叶う時がきたのだ。
そんな淡い期待がセバスチャンの胸に浮かんだが――残念ながら、それは一瞬で消し飛んだ。
驚いたように見開いたシエルの目線を追った先に、3人の使えない使用人の姿があったから。




「俺は何も見てねぇぞ!見てねぇからな!」
「ぼ、僕も何も見てません!ねっメイリン」
「見てませんですだよ!」
「そうです、僕たちはそんな、セバスチャンさんと、セバスチャンさんに抱っこされた坊ちゃんが、
 何度も何度もちゅーしてる所なんて見てませんから!!」

――嗚呼、掃除や洗濯や料理や庭仕事よりも、もっと上手い言い逃れの仕方を仕込んでおくべきでした。

一世一代の好機を逃して深く落ち込むセバスチャンの左頬に、
指輪をしたままのシエルの右ストレートが綺麗に入るまで、後数秒。

ファントムハイヴ家は今日も平和です。






改定履歴*
20110324 新規作成
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