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首筋に残るもの

空に厚く雲がかかり、月さえも見えないような夜。
キャスケットは、久しぶりに回ってきた見張り番の日だった。
とは言っても今は島に停泊中だし、周りには船の一隻どころか人の気配も無く見張りと言っても暇である。
二人一組での仕事なのをいいことに、ほんの一時の間だけ、ともう一人の新人に任せて甲板へと降りた。


数日前、一度だけ交わしたキスが忘れられず、何度も思い出してしまう。
あの日から、ローを好きだという自覚はあった。
少しでもいい、何気ない時間を共有できたならという気持ちが、
キャスケットの足を巡回ルートには入っていない船長室のある甲板へと向かって動かす。

普段不規則な睡眠をとるローだから、起きているかも知れない。
でも、こんな深夜だし、もしかしたら寝ているかも。
その場合は睡眠を妨げないように、と足音を消して扉の前に立ったお陰で、
普段だったら気付かない程度の大きさの、その声が聴こえたのだ。

―――嘘、だろ。
キャスケットは自分の耳を疑った。
船長室から漏れる、ローの、押し殺すような甘い喘ぎ。
それから、優しくその名を呼ぶ声は、副船長であるペンギン、その人のものだった。

嘘であって欲しい。気のせいであって欲しい。
そう願うような想いで窓から中を覗くと、そこには
全体像は見えないものの、二人であると確認できる影があった。



****
朝が来ても、見張り番を交代して睡眠をとっても、熱めのシャワーで目を醒ましても。
昨日垣間見た光景が、あの声が、頭から離れない。
もしかしたら、自分は立ったまま夢を見ていたのかもしれない。
そんなありえないことを考える。それほどに信じたくなかった。
好きだと自覚した途端に失恋だなんて、辛すぎる。

キャスケットはどうしても、ローから直接、「違う」という言葉を聴きたくて、
夕食を摂らなかったローの為に、船長室へと軽食を持って行く役割を買って出た。
いつもならこれはペンギンの役割なのだが、不思議なことに今日は姿が見当たらない。
もしかして、部屋の中に二人で居るのかも。そう思うと少し緊張したが、
幸いなことにローは一人、ソファで本を読んでいるところだった。

「船長、これ…」
「サンキュ」

そう言いながら目の前のテーブルに食事を置く。
ローは座ったまま軽く礼を言うと、ぱたんと本を閉じ、
キャスケットに目線で隣に座るようにと促した。
これはいつものことで、一人にしていても結局食事に手をつけないから、という
ペンギンの細かすぎる配慮から始まり、今ではすっかり定着した行動だ。

「今日、ペンさんが居ないみたいなんですけど…」
「ああ、この島のことを調べてくれるように頼んだんだ。明日には戻るんじゃないか」

軽く伸びをしてコーヒーカップに手を伸ばすローの横顔を眺めていると、
首筋に紅い跡があるのに気付いた。
たまにローの首筋に見かけることのあるその跡。
いつもは気にも留めないのだが、今日は違った。

――ああ、どうして気付かなかったんだろう。
これは所有物の証だ。自分が居ない間に、船長が他の男に盗られないように。
じっとその跡を見ているうちに、無性にそれを消してやりたくなった。
その体を押さえつけて、自分の証を上書きして、抱いてしまったら自分の物になってくれるかな。

都合のいいことに今日はペンギンは帰ってこない。
これは傷心の自分へのご褒美だ。
こんなチャンスはもうない。そう、今日しか。

そう決心すると、キャスケットはソファに座っているローの前へと立ち、
何事かと自分を見上げるローの腕を掴むと、ソファの背もたれへと押さえつけた。
カップがカシャンと音を立てて床へと落ちたが、それを気にすることもなく唇を奪う。
押さえつけた腕には抵抗するように力が入るが、キャスケットを撥ね除けるには至らなかった。

「意外と、動けないもんでしょ?」
「おまえ…」
「船長を守る為に鍛えたんです。こんなことで役に立つとは思わなかったけど」

普段は体の線の出にくい制服を着ているため、見た目には解り難いが、
武器よりも、自分の脚力・腕力での戦闘を主とするだけあって力は強い。
ローはキャスケットの戦闘能力のことを認めてはいるものの、心のどこかで
いつまでも出逢った頃のまま、可愛いままだと思っていたから、完全に、油断していた。

「この間はキスだけだったけど、今日はちゃんとやります」
「冗談よせ、おれは女じゃねェぞ」

こいつ本気だ。そう直感したローは、軽くあしらおうと試みるが、
キャスケットの返答は思ってもみないものだった。

「どうして?船長、ペンさんとはヤってるんでしょ?」
「なん…で知って」
「おれも試してみてよ」

戸惑うローの一瞬の隙を見逃すことはなく、
首筋の跡へと噛み付くと、そのままきゅっと強く吸う。
先程よりも少し鮮やかになった紅い跡。それはまるで、ローが自分の所有物になった証のよう。
例え時間が経てば消えてしまうものだとしても、嬉しくて、頬が緩む。

そのまま耳へと舌を移動させ、ぺろりと耳朶を舐め上げると、
右手でローの後頭部を強く引き寄せて唇を塞ぎ、舌を絡める。
時間が経つにつれて押さつけている腕から抵抗する力が抜けていくのが解ると、
今度は左手でローの服を捲り上げ肌を直に触り始めた。

「……―ん、」
「船長、気持ちイイの好きなんですよね?」
「っあ!」
「可愛い…もっと聴かせて」

胸の突起を爪で緩く弾かれ、思わず声が出る。
キャスケットはそれが気に入ったようで、幾度か繰り返すと
今度はそこを舌先で突付くように刺激してきた。
そのじれったい快感に物足りなさを覚えたローは、
キャスケットの首に腕を回し、足りない、もっと。とねだるように囁くと、
ぐいと自らソファに倒れこみ、服に手を掛け脱がせ始めた。
されるがままなのは性に合わない。

「船長…」

完璧に煽られたキャスケットは、自らの服を脱ぎ捨てると
ローの服をも乱暴に剥ぎ取った。
すっかり露わになったローの下腹部にキスをすると大きくなったものに向かって唇を滑らせ、
そこに到着すると戸惑いもせずにぱくりと口に含む。
ぞくりと背中を駆け上がる快感は、ローに僅かに残っていた余裕を消し去った。



****
ペンギンの、大切に愛おしまれるようなセックスとは少し違う。
こんなにも、好きだという感情をぶつけるような愛し方をされたことがあっただろうか。
何度も何度も、自分の中で精液を吐き出してもなお萎えることのないキャスケットを見上げながら、
ローは快楽でぼんやりとしか働かない頭でそう考えた。

こんなのも、悪くないかも。
今回だけだと、一度だけだと思って受け入れたが、
次に迫られた時、しっかり拒否する自信はないかもしれない――。

そんなことを思っていると、ちゃんとおれのこと見て、と
キャスケットに軽く怒られてまた、唇を塞がれる。
与えられる快感と直に感じる高めの体温で、思考はゆっくりと溶けていく。
煩わしいことは、明日考えればいい。
そう決めると、背中に回した腕にきゅっと力を込めて快楽に身を委ねるのだった。






改定履歴*
20090917 新規作成
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