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秘密の場所

爽やかな風が甲板を通り抜けていく。
夏から秋に変わる途中の、涼しい日。
滅多に他の船員がこないここは、キャスケットお気に入りの場所。


いつものように航海術の勉強をしようとやってくると、先客がいた。
めずらしいな、ここに人がいるなんて。そう思って近づいてみると、
座ったまま壁にもたれて寝ているのは、他でもない船長――ローだった。
お気に入りの帽子を手に抱いたまま、静かに寝ているようだ。

船には勿論立派な船長室があるので、船員用の大部屋では寝ないし、
元々眠りの浅いローがこうやって人前で転寝している所など、見たことが無い。
つまり、寝顔を見るなんてことは初めてだった。

伏せた目には長い睫毛。
緩く閉じた薄い唇。
そこから漏れる寝息が、やたらと艶やかに思え、すこしドキドキした。


立ったまま思わず見惚れていると、不意に強い風が吹き
持っていた本に挟んでいた海図が静かにローの膝へと落ちていく。
間一髪のところでそれはキャスケットの手に掴まれたが、
物音で目を醒まさなかったかと慌ててローの顔を見ると、目線の高さがちょうど同じだった。

――起きないのかな。

ローの伏せたままの瞳をじっと見つめる。
先程よりも近くで見る、その瞼は固く閉じられたままで、
キャスケットは引き寄せられるように口付けをした。

「――!」

今、おれ、何したんだ。
次の瞬間、自分の行動に驚いたキャスケットは、
思わず周りを見回し、誰もいないのを確認すると
帽子をきゅっと深く被り慌てて立ち上がる。
ローに背を向け、一歩踏み出した、その時。

「…おい」

それは、ローの声だった。

「やりっぱなしで逃げる気か?」
「!す、すみませんあのつい…」
「いいから座れ」

一体いつから起きていたのか。
いや、それはこの際どうでもいい、どんな罰が待っているのか――。
色々な良くない想像が一瞬のうちに脳内を駆け巡ったが、
言われるがままにローの方へと向かって座り、恐る恐る目を開ける。
ローの視線は、予想とは違い自分を咎めるものではなかった。
自分の都合のいい勘違いでなければ、それは、先程息遣いにも感じた艶やかさを含んだ、優しい目線。

「あんなので終わりな訳ないよな?」

真意を測りかねていると、ローが促すようにくいと顔を向けたので、
キャスケットはそのまま、二度目の口付けをした。
軽く音を立てて離れるが、まだ名残惜しく、
ローを見ると目を瞑ったままだったので、そのまま続けた。
薄い唇をそっと舌で割り、口内へと進入する。

「…ん」

抵抗は、されなかった。
それどころか、回数を重ねる度にすこしずつ大きくなるローの唇から漏れる甘い声が、
キャスケットの聴覚を支配し、頭の中が溶けてゆく。

このまま、押し倒してしまおうか。
思わずそんな想像をしてしまう自分が自分で信じられなかったが、
――ただ、目の前のローが愛しい。

「船長…」

思い切って名を呼び、そのまま肩を掴む手に力を込める。
いっそ、このまま。



キャスケットがそう決心したのと、ローが立ち上がったのは同時だった。

「っ、あの…っ!」
「結構キモチ良かったよ、続きはまた今度な」

ローは少しだけ笑ってそう言うと、お気に入りの帽子をいつものように被り、
何事も無かったかのようにその場を後にした。
残されたのは、自身の気持ちに気付かされて混乱するキャスケットがひとり。

気持ちよかった、かぁ…。また今度っていつだろう、
そう考えてしまう自分に気付き、ますます混乱は深まるのだった。







改定履歴*
20090912 新規作成
初キャスロです。
ロー→20-21
キャスケット→19-20なイメージです。
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