top * 1st * karneval * 刀剣 * utapri * BlackButler * OP * memo * Records

刻印 -2-

ペンギンへの気持ちに気付かされて半月あまり、
おれたちハートの海賊団の船はようやく次の島へと辿り着いた。

ひとつ前の島とは違って、うっそうとした樹木に覆われたこの島は、見渡す限り人気がない。
ようやく見つけた村の近くに停泊して情報や食料を補給しようとしていた中で出会ったのは、
よく見知った顔だった。

「火拳屋…?」
「よお、ロー。また会ったな、元気にしてたか?」
「まだ半月位しか経ってねぇだろ、バカか」
「冷てぇな。おれに会えなくて寂しかったんだろ」

相変わらずの軽口にも、思わず顔が綻ぶ。あのときはもう会えないかもと思ったのに。
別にこんなヤツ好きでもなんでもないけど、気の会う話し相手との再会は
単純におれの気分を上げてくれた。

「なぁ火拳屋、ここの島のログってどれくらいで溜まるんだ?」
「ん?ああ、一週間くらいかな」
「そんなに?また暇だな」
「まぁこればっかりは仕方ねぇよな。そうだ、うちの船で飲もうぜ。暇してたんだ、付き合えよ」

先程仕入れたらしい酒を片手にそう誘われて、断る理由はどこにもなかった。
元々火拳屋の話を聞くのは面白くて好きだし、
この機を逃せばまたいつ会えなくなるか解らない。

ペンギンもこいつのことは何だかんだといって信頼しているみたいだったから、
少し遅くなったからと言って咎められはしないだろう。
おれは一緒にいたキャスケットに、遅くなるから、と言付けると、火拳屋の船へと向かった。


****
「うまい、これ、もしかして」
「ああ、ノースブルーの酒だ。お前そこ出身なんだろ」
「覚えてたのか」
「なんとなく酒屋で目に入ってつい買ったんだけど、タイミングよかったな」

そういって明るく笑うエースの笑顔に言葉が詰まる。
もう会えないと思っていたのに会えたことと、おれのこと覚えてくれてたってことが、なぜだか嬉しかった。

気を抜いたら思わず涙が出てしまいそうで、それを隠すように酒を飲む。
おれはそれほど酒に強くないから普段はあまり飲まないようにしているが、
火拳屋は相当自信があるようで、先程から豪快にグラスを開けていた。

「なぁ、ロー。ところでさ」
「?なに」

火拳屋が、何か言いかけたところで船長室の扉がノックされる。
なにかトラブルがあったみたいで、ちょっと待ってろな、と言うとそのまま部屋を出ていってしまった。

「へぇ、アイツでも本なんか読むんだな」

やることがなくなってしまったおれは、酔い覚ましも兼ねて本棚へと向かった。
自分の本棚ももちろん好きだが、人の本棚を見るのは面白い。
自分にない知識がまだまだあるのだと、実感できるから。

無造作に並べられた本を一冊手にして、ぱらぱらとページを捲る。
そのまま、何の気なしに机に目をやるとログポーズが置かれていた。

「……え、これって」

何かの間違いだろう、そう思って何度か見直してみても、結果は変わらない。
ログポーズのログは、もう溜まっていた。

「なんで…」

今日、あいつはログが溜まるのに一週間掛かると言った。
前の島を出たのは3日しか違わないのだから、火拳屋のログポーズだってまだ溜まってないはず、なのに。
嘘だろ、火拳屋が嘘つくはずなんかない。じゃなきゃ、きっと勘違いしてたんだ。
そう思い込もうとしたときだった。

「しまったな、ソレ置きっぱなしだったか。まあ別に隠す気は無かったからいいか」
「火拳屋、これってもしかして」
「そ、もういつでも出航できんだよ」

いつの間にか船長室の入り口に立っていた火拳屋が、ゆっくりこちらに歩いてくる。
ダイニングから持ってきたらしい酒の瓶がテーブルに置かれて、
それでもまだおれの方へと近づいてくるその表情は、先程までとは全く違うものだった。

「嘘ついたのか?」
「いや?一週間掛かるっていうのはホントだ。
ただおれたちは運良く吹いた追い風のお陰で、10日前にこの島に着いた。ただ出航してないだけ」
「何で出航しなかったんだ」

大きな手のひらで頬に触れられて、頭の中に警鐘が鳴り響く。
このままじゃダメなのはわかっているけど動けない。
まっすぐな瞳に捉えられたまま、おれはまるで人形みたいに突っ立って答えるのがやっとだった。

「何でだと思う?」
「知らな…」

火拳屋はそんなおれを見て満足そうに笑うとおれの後頭部を引き寄せ、
そのまま、いつかと同じ緩く弧を描いた唇でおれのそれを塞いだ。

「…っん――、ん、は、」

突然のことで閉じることもできなかったおれの口の中に、熱い舌がはいってくる。
舌を絡めとられ歯列をなぞられ、まるで頭の芯が痺れるような、長いキスだった。

「おまえを待ってた」

何がなんだかわからないうちに膝の力が抜けて、
おれはいつの間にか火拳屋にすがりつくようにして立つのが精一杯だった。
そんなおれのからだをしっかり支えたまま、目線を合わせて言われてた言葉に一気にからだが熱くなる。
心臓はばくばくと音を立てた。

何も着ていない火拳屋の上半身がくっつくのが急に気になって、
思わず両手をついて距離をとろうと試みても、逆にきつく抱き締められるだけ。

「なぁ、ロー。おれが言ったこと覚えてるか」

この間と同じ、熱を孕んだ声が耳元で響く。
それは、忘れようとしていたおれの記憶を容易く呼び起こした。
火拳屋が前言ったこと。確かそれは――

「言ったよな、『次に会うときまでにペンギンとくっついてなかったら最後までヤる』って」
「そんなの、お前が勝手に言ってただけだ」
「でも、ヤってねぇだろ。違うか…?」
「――っ、それは…」

記憶の中に刻まれている言葉と同じ言葉を告げられて、
どうすればこの場を逃げられるか必死に考えた言葉を言ったときにはもう遅くて、
おれのからだはあっという間にベッドに押し倒されていた。

「な、火拳屋、待て、やめ…」
「エース、だ」
「――エース、待てって、なぁ」
「嫌だったら本気で逃げろよ」

熱い手がおれの服を捲って、からだ中に触れる。
行為自体は強引なものなのに、おれに触れる手はひどく優しいものだった。
唇を塞がれたままでは上手く息継ぎができなくて、勝手に涙が溜まってゆく。

「やっあ!!ひぁ、」

キスと上半身への愛撫に耐えるだけで精一杯だったのに、
不意にその熱い手が下半身に触れて思わず高い声が上がる。

「待って待って、エース!」
「でももうココ、反応してるぜ」
「…っ!」

何か否定の言葉を言っておかないとおかしくなりそうだった。
現にエースの言葉に返答できずに黙ってしまうと、先程からの長いキスに反応して
大きく勃ち上がったおれのモノを包んだ手のひらが、
上下に動かされるたびに響くくちゅくちゅという卑猥な水音が耳に届いて恥ずかしさで死んでしまいそうだ。決して望んでいない刺激にいちいち反応して、びくつく腰が嫌で仕方ない。

せめてもの抵抗で顔を覆おうとした手は簡単にひとつに纏められて、
尖らせた舌で首筋から鎖骨をなぞられる。
その間にも上下に動く手は止めてくれなくて、おれはもう限界だった。

「お願、も、離して…、もうおれ」
「イきたい?」
「〜〜違う、もう離して」
「違わねぇだろ?」
「っ、ひぅ、やああ!!」

先端に爪を立てられて、おれはあっけなくイってしまった。んだと思う。
そう思うのは、エースが精液で汚れた自分の手をおれの目の前に持ってきたから。
恥ずかしさで頭が真っ白になって、おれの脳は、もう相手が男だとか友達だとか、
そんなことは頭の片隅に追いやられてしまって、涙でぼやける視界の向こうの男の顔をじっと見ていた。

「気付いてるか?」
「…?」
「お前さっきから、おれの名しか呼んでない。今だっておれのことしか考えてねぇだろ」
「っ、そんなこと…おれがすきなのはペンギンで…」

そう、おれが好きなのはペンギンなんだ。でも確かに、さっきから頭にあるのはエースのこと、だけ。
何があっても揺るがないと思っていた自分の気持ちを見失ってしまいそうで、頭は余計に混乱した。

「じゃあおれのこと、嫌い?」
「…、嫌いじゃ…ない」

何か今、おれは大変なことを言ってしまった気がする。
後戻りできなくなるような一言を。
ただ、おれの返答を聞いたエースの表情が一瞬で柔らかくなって、おれはそれを『嬉しい』と思ったんだ。

「じゃあ大人しく抱かれてろよ」

痛くはしねぇから、そう耳元で響くエースの声を最後に、
おれの脳は考えることを放棄したみたいで、記憶が途切れてしまった。



****
「船長ーーー!よかった、おかえりなさい」
「キャス、遅くなってごめん」
「ほんとですよ、もうおれペンさんに超怒られたんですから!今だって…」
「悪かった、おれからペンに言っとくから」
「…?船長、顔色悪い、です よ?」

船に着いたのは朝方だった。どうやって戻ってきたのか、正直よく覚えていない。
心配してくれるキャスケットには悪かったが、適当に流してそのまま自分の船室に閉じこもった。

体中がダルくて、痛くて、眠い。
それでも嫌な気分にならないのは、相手がエースだからだろうか。
別れ際に言われた、『またな』の言葉が頭から離れない。

同じ航路を歩んでいる海賊団だから、また会う日がないとも言えない。
その時は多分、自分はエースを拒めないだろう。
それどころか、また会える日を『待ち遠しい』と思ってしまうなんて。

ただ一夜だけだったのに、あの熱いからだと脳に直接響くような声が、
この体を覆う刻印と同じように、おれの記憶に刻み付けられてしまったのだ。


「またな、っていつだよ…」

独り言のように呟いた言葉は、朝日の降り注ぐ部屋の中に吸い込まれて消えた。






改定履歴*
20100613 新規作成
20110122 再録
- 2/2 -
[] | [次]



←main
←INDEX

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -