short trip -1-
「なあユースタス屋」
「んー?」
「…ここ、どこだ」
「おれの船だろ。付け加えると、おれの部屋の前の甲板」
そう。確かにそうだ。それはわかる。
ここはユースタス屋の船で、今は朝で、ついでに昨日は酒場でこいつとふたりで酒を飲んだ。
めずらしくノースブルー産の酒があったからおれは普段よりもたくさん飲んで上機嫌になったんだ。
いい気分だったからつい、誘われるままここにきて、そのままこいつのベッドで抱き合って、
…酒のせいもあって普段よりも行為に没頭してしまって今に至る。
それは別にいいんだ、けど。
情けない話、ペンギンに一言も言わず外泊なんてしたらアイツは本気で怒るんだ。
それも、静かに。怒り方が怖えーんだよな…。だから、せめて早朝のうちに戻ろうとしたのに。
「違う!!!なんでこの船、動いてんだよ!」
「気晴らしに小旅行だ、旅行」
「…何が旅行だ…おれ昨日泊まるなんて言ってきてねぇんだよ!降ろせ、今すぐ船を戻せ!」
「まあそうカリカリすんなって。ちょっと離れた小島に、リゾートホテルがあんだよ。
そこで一泊。明日には戻るから、ゆっくりしてけ」
にやりと笑うこの男の表情に確信する。初めっから仕組まれてたんだ。
ふざけんな、ペンギンを怒らせたらどれだけめんどくさいことになるか知らないから
そんな悠長なこと言えるんだ。
――ああ違う、そうか、ペンギンが怒っても別にコイツには関係ない。
だから他人事なんだ。そう、被害を被るのはおれと、キャスケットやベポやクルー達…
いやいやいや、マジでヤバイ。キャスは別にいいとしてベポが、
あのペンギンが怒った時の船の冷たい雰囲気にさらされるなんて可哀相だろ。
「ゆっくりなんてしてられるか!可愛いベポが待ってんだよ!」
「あーもー、ちょっとお前黙ってろ」
目線の先、すこし斜め上にあったユースタス屋の赤が、ぐんと近くなる。
後頭部には、ユースタス屋の大きな手。
引き寄せられたんだと気付いた時にはもう遅くて、
早朝で口紅も塗られていない唇がおれのそれを塞いだ。抵抗しようとしても力が入らない。
理由なんて簡単だ。…おれは、ユースタス屋が好きだから。
赤い髪も大きな手も、おれより少しだけ高い身長もすべて。
拒めないのを知っててキスをする、すこし狡い性格も好きなんだ。
一応閉じていた唇をぺろりと舐められたかと思うと次の瞬間にはおれの中に入ってくる甘い舌が、
緩やかにおれの思考を溶かしてゆく。
「いいから、今日は一緒に居ろよ。たまには一日中独り占めさせろ」
――唇が耳に触れる至近距離で囁かれて、まぁ一泊くらいなら、
なんてほだされてしまうおれは、もう引き返せないところまで来てしまっているのかもしれない。
end
改定履歴*
20100217 新規作成
拍手お礼文でした。
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