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Happy Valentine's Day! -6-

「坊ちゃん」
「ん…」
「起きてください、坊ちゃん」

ゆるやかに浮上してくる意識にあわせて瞼を開けると、
そこには自分を心配そうに覗き込んでいるセバスチャンがいた。
いつもはきちんと締められているネクタイも今は見あたらなくて、シャツのボタンは開いたまま。
普段あまり見ることのないきれいな肌にはうっすらと汗が滲んでいて、
一瞬で僕に今どういう状況なのかを思い出させてくれた。

「…セバスチャン」
「よかった、気がつかれましたか」
「ぅん」
「坊ちゃんはいつも、セックスが終わるとすぐに寝ちゃいますね」

そんなとこが可愛いんですけど、なんて歯の浮くセリフを言いながら
くすくす笑うセバスチャンに、だれの所為だ、と返すか迷ったけれど、
僕のからだをタオルで拭ってくれる感覚が心地よくて、
そしてその仕草の合間に垣間見えるセバスチャンの表情がすごく幸せそうに見えるから。
まぁいいか、なんて思ってしまう。
どうやら、まだ慣れないセックスの後特有の心地よい倦怠感は
程よく僕の脳を溶かしてくれるみたいだ。

「おいしかった、か?」

自分を見つめる紅茶色の瞳に手を伸ばしながら、掠れる声でそう尋ねる。
かすかに感じる喉の痛みは、認めたくはないけれど、きっと喘ぎすぎたからだろう。
ようやくセバスチャンの頬に届いた僕の手にはすぐに大きな手が添えられて、
そのあたたかさにとくんと心臓が跳ねた。

「今までたべた何よりも、美味しかったです。
 …美味しすぎて、一度では足りなくなってしまいました」

――本当に、悪魔の笑顔にはヒトを魅了するちからがあるのではないだろうか。

そんなことを想像するくらいに綺麗な笑顔で、
僕の手を自分の手のひらで包み込んだままそう言われると、
もう身動きなんてできなかった。
革張りのソファからゆっくりと抱き起こされて腰に手を回されて支えられて、
額や頬、唇へと降ってくるたくさんのキスを受け入れる。

「ん、ん…はぁ、セバスチャン、…ぁ」
「もう一度…だめですか?」
「――…、も、だめだ。起き上がれなくなってしまう」
「残念ですねぇ…ですが、お着替えもしないといけませんしね」
「うん…え、ぅわ」
「汗で、ぐしょぐしょになってしまいましたね」

不意にそう言われてセバスチャンの視線を追って自分のからだを見てみれば、
羽織っていただけのシャツと脱がされずに残った靴下を身に着けているだけ。
その執務室に全く似つかわしくない自分の姿がなんだか急に恥ずかしくなってしまって、
とりあえず目の前の恋人に隠れるようにくっついた。

「セバスチャン、…あんまりみるな」
「いまさら、恥ずかしがらなくてもいいでしょう?」
「は、恥ずかしいに決まっているだろう!」
「なぜです?きめ細やかな肌が夕日に映えて、とてもきれいですよ」

ほらまた、その笑顔で僕を甘やかす。
今度は耳元で響く低い声も相俟って、僕のからだはびくんと一度跳ねたあと
そのまま固まってしまった。
続いて聞こえるくすくす笑う声に今度こそ文句を言ってやろうと思うのに
唇から漏れるのはちいさなちいさな、行為の最中みたいな意味を為さない声で―…
こんなことだから、僕はこの執事のすきなようにされるんだ。


「…今晩、シエルのお部屋でもういちどたべさせてくださいね?」


さっき食べたチョコよりもあまいあまい、悪魔の声で囁く、僕のコイビト。
僕は精一杯の仕返しの意味をこめて、その首筋に噛み付いた。

「すきなだけ、たべればいいだろ。全部おまえのものなんだ」

自分のつけた赤い跡をぺろりと舐めて、一生懸命口にした言葉。
いつも余裕綽々のこの恋人が少しは驚けばいいな、なんてことを思いながら、
僕は真っ赤に染まった顔を隠すように、心地よい香りのする肩口に顔を埋めた。




end

改定履歴*
20110214 新規作成
お付き合いありがとうございました!
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